ブログパーツ

『トールマン』

2013年09月11日
The-Tall-Man-2012-Movie-Poster_convert_20130906134736.jpg

あらすじ・・・
出来る限り前情報がない状態でご覧頂く方が良いと思いますので、あらすじは省略します。


『マーターズ』で世界中のお客さんにイヤ~~な気分の限界を味合わせた鬼才パスカル・ロジェ監督の新作(と言っても公開は去年の11月でしたが)、『トールマン』を観ましたよ。
頭の中で浮かんでは消える、「この先こうなるだろう」という予想はことごとく外れ、闇の中を蝋燭のあかりだけで進んでいるような不安な思いに胸をかき乱される1時間46分。
誰が善人で、誰が悪人なのか。
オカルトなのか、異常犯罪なのか。
集団なのか、単独なのか。
どのようにでも解釈可能な台詞や目配せに戸惑い、必死で自分の納得がいくような真相を期待しては裏切られる。
この、監督の思うがままにコロコロと転がされることの心地よさといったら。
 
おっかあ・・・パスカル・ロジェ監督のてのひら・・すごくあったけえよ・・・

『マーターズ』のビジュアル的なエグさを期待して観ると肩すかしをくらうでしょうが、精神的なエグさは今回も折り紙つき。
ホラー映画のような怖さあり、ミステリー映画のような謎解きあり、社会派ドラマのようなメンタル攻撃あり、と、様々な味が堪能できる重箱弁当のような作品ですので、みなさま是非一度ご賞味ください。

・・胃もたれ覚悟で。(いい意味で)(どういう意味なんだ)







(※ 以下ネタバレを含みます)



監督が本作の着想を得たのは、世界中の国々で見かける「行方不明者のポスター」だったそうです。
どこの国、ということはなく、どこででも毎日のように起きている、子どもの失踪事件。
中でもアメリカでは、年間80万もの子どもたちの行方がわからなくなり、そのうちの1000人は何の痕跡もなく完全に消えてしまっているとのこと。
1000人もの子どもたちは、一体どこに行ってしまったのか。
こういうニュースを目にした時にパっと思いつくのは、「殺人」や「人身売買」などのネガティブな行く末であることが多いはず。
しかしもしも、子どもたちの行く末が地獄ではなく、幸せな未来だったとしたら・・?
本作で描かれるのは、そんな有り得なさそうで有り得なくなさそうな、とてもかなしい誘拐事件の顛末です。

いや違う。 
その未来は第三者が考えた「幸せ」であって、子どもたちにとっての「幸せ」なのかどうかはわかりません。
でも、じゃあ、そもそも本当の「幸せ」とは何なのでしょうか?

実の親と一緒にさえ居れば、子どもは幸せなのか。
血は繋がっていなくとも、お金と教養のある大人と一緒に暮らせば、子どもは幸せになれるのか。
たとえロクデナシでとんでもないクズでも、愛情さえあればそれでいいのか。
品行方正な生活を提供できるのであれば、愛情が感じられなくてもいいのか。

また、子どもが持つ「才能」に、生まれた環境は関係しないけれど、それを伸ばす過程においては、少なからず家庭環境が関わってくるのではないか。
実際、子どもの進路に親の学歴や年収など影響していることは、様々な調査の中で明らかとなっています。
学力は「親の収入」に左右されるだけなのか【Benesse(ベネッセ)教育情報サイト】

「才能さえあれば」? 「努力さえすれば」? 「なんとか工夫すれば」? 
それももちろんそうだと思います。
しかし、経済的な格差と子どもの将来とは無関係、と切り捨ててしまえないのもまた、悲しいかなひとつの現実なのではないか。

本編の主人公ジュリアと彼女の夫は、世界中の貧しい国を周り、アメリカ各地を巡り、そこに暮らす子どもたちを救うべく尽力してきました。
しかし、貧困は親の精神力を蝕み、子どもたちの可能性をひたすらに潰してゆくばかり。
行政は門前払い。
政治家は玉虫色のスピーチばかり。
失望と諦めから、惰性で生きているだけの親たちを前に、ジュリアたちはひとつの決断を下します。
「子どもたちの人生をリセットする」という決断を。

ジュリアたちによって誘拐され、地下に潜り、真っ暗な洞窟を通って生まれ変わる子どもたち、いや、生まれ変わらされる子どもたち。
経済的に裕福で学歴もしっかりしていれば、子どもはきっと幸せになれる、とばかりに「よかれと思って」法を犯し、自分たちには認めることのできない「わるい親」の子どもとして一度死なせ、認められる「いい親」の子どもとして新たな命を与えるジュリアたちは、「人助け」をしているつもりなのでしょう。
どうにもならない現実を打破するために。
彼女曰く、「ダメ親が子供たちを、自分たちと同じような壊れた大人へ育ててゆく」という悪循環に、終止符を打つために。

しかし、その行為は結局、状況の違いこそあれ実の親たちと同じで、「子どもの選択肢を大人が勝手に決めてしまっている」ことにほかならず、「寂れた田舎町のトレーラーハウスはダメ」で「都会のペントハウスはオッケー」という独善的な考えの押し付けといい、子どもを愛する親の気持ちを自分たちの理念のために無視するやり方といい、どこからどうみても間違っています。
絶対に間違っているのですよ。
間違っているはずなのですよ。
でも、でも、どこかで「ホントに?」と疑問符をあたまの上に漂わせてしまっているわたしがいるのです。

なぜなら、わたしには、子どもにとっての「幸せ」はコレ!と、はっきりと答えることができないから。
今、自分が我が子にかけている言葉が、善悪の判断が、将来についてのアドバイスが、習い事や学校の勉強についてのあれこれが正しいのかどうか。
どうすれば、何をすれば、自分たちが先立った後も子どもが幸せな人生を歩んで行けるのか。
そこにあるのは疑問と漠然として不安だけで、自信なんてまるでないのです。
もしもうちにもっとお金があって、子どもにありとあらゆる経験をさせてあげることができたなら、この子が持っているかもしれない才能を、もっと引き出してあげることができたのではないか・・・なんて思ってしまうことも、決して少なくはないのです。
だから、ジュリアたちの行為は間違いだとわかっていても、「バカ!アホ!ひとでなし!」と一方的に責め立てることが、どうしてもできなかった。

そんなこんなでモヤモヤし続ける中、訪れたクライマックス。
他の誘拐された子どもたちとは違い、唯一「もう幼くはない」年齢だった少女ジェニーが、絵に描いたようなクズ親のもとから、自らの意志で抜け出させてもらうことを決意します。
一人で自分を育ててくれた母のことは愛しているけれど、もっとマシな人生を送りたい。
強制的にリセットされるのではなく、自分で自分の未来を選択したジェニーが、裕福そうな養母のもと、充分な教育を受け、失語症も克服できている姿を見て、少しだけ「つらい選択だっただろうけど、よかったね・・」とマシな気持ちになれたわたしだったのですが、ホッとしたのも束の間、そんな自分の選択に対する疑念をぬぐい去ることができず、カメラのこちら側の「大人」に答えを求めるかのように「これでよかったんですよね・・?ね・・?」と瞳を潤ませるジェニーが画面いっぱいに映し出され、映画は終わってしまったのでした。

20050516034409.jpg

ということで、鑑賞後の気分は『マーターズ』ほどではないものの相変わらず安定のどんより具合で、ロジェ監督はホントにすごいなぁ、テクニシャンだなぁ、と思いました。
その豪腕から放たれる「問題提議」という球は、今後も確実に観た者の心のストライクゾーンへとめり込んでゆくことでしょう。
考えよう。
考え続けるしかない。
いつの日か、自分にとっての答えが出るまで。
ああ・・・クライヴ・バーカーさんも太鼓判を押した(ものの結局スタジオにボツにされたという)ロジェ監督版『ヘルレイザー』、観たかったなぁ!



-おまけ-

・ おかあさん「うちの子をどこにやったの?」
  ジュリア 「体制はとうに破綻しているわ・・・どこでも同じよ・・子供たちは可能性に満ちていて、わたしたちはそれを伸ばしてあげなければならないのに限界を感じている・・・そして敗北と痛みだけが循環しているの・・ 何度でも・・何度でも・・・何度でも!!」
おまえ
(※ こういう目をしていたおかあさん)

・ と、全く会話のキャッチボールが成り立っておらず、観ているこちらも困惑しきりだったジュリアさんの独白シーンが、本編を全て観終わった後もう一度観直すと、ものすごくグっとくるシーンになっているという。 「真相は明かせないけど、察してつかあさい!」という精一杯の誠意・・オレはしっかり受け取ったぜよ! (ま、許せはしないけども)

・ 生まれたての赤ちゃんを、いきなり(寝そべった姿勢のまま)高い高いするシーンがあって仰天しました。 外国では首がすわっていない状態でも遠慮しないのか・・・

・ と思ったのですが、きっとあれは、周りに子育てについてアドバイスしてくれる大人もおらず、充分な教育も受けていない子どもたち、というあの町の現状を表していたのでしょうね。 そもそも赤ちゃんの父親っていうのが実母の内縁の夫ですし、ソーシャルワーカーもいないんだろうなぁ。

・ ヒロインがとある「崇高な目的」に捧げられる、という結末が『マーターズ』と共通していますね。 監督、そういうのすきなのかな・・。 よっ!ロジェこのやろ!どちらかというとMっぽいのがすきか!

・ 一度観終わったあと、二度、三度と観直したくなり、またその度に新たな楽しみ方が出来ますので、ついDVDを買いたくなってしまいますよね! よっ!ロジェこのやろ!商売上手!

 



     ♪♪どちらのバナーでもどうぞご遠慮なく♪♪ →   にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ


※当ブログで使用しているイラスト等の著作権は、全てはアガサにありますので、転載、二次加工、再配布の際は一言ご連絡下さいませ。