『ブルーバレンタイン』
2011年10月05日

あらすじ・・・
あなたが空気を読んでくれなかったから、今日は私の離婚記念日。
何気ない日常に潜む、恐怖の瞬間。
心臓が凍りつくようなショックシーンの連続に、失神者続出。
フェイクドキュメンタリーの最高峰がここに誕生。
もはやこれは、『食人族』を越えた・・・!!
と、心の中に煽り文が浮かんでは消えてゆくような、新世紀のラブソング『ブルーバレンタイン』を鑑賞しました。
どこにでもいそうな夫婦のありふれた一日を描きながらも、その内容は確実に観る者の顔を蒼ざめさせ、カップルで鑑賞していようものならかなりの高確率で年間摂取量ギリギリの「気まずさ」を味あわせてくれる、とても破壊力のある映画でしたよ。
今から観る人は、絶対つがいで観ちゃダメですよ!
アガサとの約束だよ!
とにかく、「生きた英会話を習いたいんなら家出のドリッピー」、「行き着いた夫婦の会話を味わいたいんならブルーバレンタイン」というくらいの、臨場感溢れる場末トークがぎっしりと詰め込まれ、現実でもヤバめのご夫婦はとてもじゃないけど平常心ではいられない、新婚直後のラブラブハッピーなご夫婦ですら居た堪れない気持ちになってしまう事間違いなし。 オーソン・ウェルズ先生も草葉の陰でビックリですよ!
どれくらい臨場感溢れているのかと言いますと、例えばまず前提として「寝室が別」とかね。
5年前に、若さゆえの情熱に突き動かされ強引にゴールインしたディーンとシンディは、娘と3人、大きな一軒家で暮らしているものの、その寝室は別々の部屋。 というか、娘とシンディはベッドルームですが、夫のディーンは居間のソファー。 他にも寝る場所ならありそうなのに、あえてのソファー。
これはねぇ、結婚して数年経った夫婦にはよくある光景ですよね。 「子どもが大きくなったので3人だと寝室が手狭で・・」とか「あなたは夜中までしたいコトがいろいろあるでしょうから・・」とかエクスキューズに事欠かない光景ですが、要するに「お前と一緒に寝たくないんだよ!」というね!そういうコトらしいですよ! いや、私の事じゃなくて、私の友達の知り合いのお姉さんが言っていたらしいんですどね!
子どもの前では特に言葉を荒げることもなく過ごしているのだけれど、相手が窓を閉めた状態で車に乗り込んだ瞬間毒づくというのもね。結構ありがちな光景らしいですよね。
朝食の用意や仕事の支度に追われる妻を尻目に、のんきに子どもとふざけあう夫。
彼にとって、朝ごはんに不満を漏らす娘に同調しておちゃらけるのは、妻に対するフォロー(あえてふざけているというコト)の意味合いもあるのだけど、肝心の妻はあからさまに苛立ちを覗かせるばかりで、一緒にあははとは笑ってくれない。 挙句の果てには会話もそこそこに娘を車に乗せ乱暴に発車させる妻。 で、そんな彼女に「ファッキンビッチ!」と窓越しに罵声を飛ばす夫。
ここのポイントは「窓を閉めた状態」という所ですね。 あくまで相手に聞こえていない状態で「ざけんなよばーか!」と悪口を言う。 最小限の配慮というか、陰湿というか。 これも結婚生活が長くなると、よくある事らしいですよ。 ・・・・って友達の知り合いのお兄さんが言っていたらしいですよ!私じゃないですよ!
犬小屋から逃げ出した愛犬が、その後道路わきで死骸となって転がっているのを発見してしまった、という悲しい経験をした妻に夫がかけた最初の一言が、「だから小屋には鍵かけとけっていっつも言ってただろ!」だったのも印象深かったですね。
こういう時はね、黙って抱きしめるのが一番なんですよ。そして静かに、「そっか・・残念だったよな・・でも、お前は悪くないんだからな・・気にしなくてもいいんだよ・・」と言ってあげるのですよ。だって、妻だってショックなんですから。ちっと考えればわかる事じゃないですか。
ただ、こういう時夫というのは得てしてこういう反応をとるものなのですよね! で、益々不信感が募る、と! いや、だから私じゃないですよ! 友達の知り合いのご近所さんの親戚から聞いた話! マジでマジで!!
あと、私が一番グっときたのは、愛犬の死を秘密裏に処理する為、娘を一晩自分の実家に預けに行くシーン。
孫をお世話してもらう義父に、なんの挨拶もせず離れた場所に佇む夫。
そして、玄関口で「おとうさんは?」と聞く娘に、「さあね」と答える妻。
否定でも肯定でもない、放棄の答え。
これはつまり、もはや妻は夫の事を、娘にとって尊敬すべき存在でなければならない、と思っていないという表れなのですよね。
「今ちょっと手が離せないんじゃないの?」みたいにフォローする気もない、ただの「さあね」。 どうですかこの破壊力! この一言が出始めたら、いよいよ末期ですよ!妻は完全に諦めているという証拠ですよ! ・・・じゃなくて「らしい」ですよ!そういうコトも「あるらしい」ですよ!知り合いのママ友の幼なじみが言うには! って聞きました! 風の噂で! いやー、肝が冷えますなぁ!!
他にも、車中で気まずくなってしまい、その空気をなんとか打破しようと手をつなごうとしたらスルっと払いのけられるとか、
妻がシャワーを浴びている所に乱入してエロい雰囲気に持っていこうとするもののサラっと交わされ「触んなやオーラ」を出される夫とか、
なし崩し的に夜の営みに雪崩れ込もうとする夫に愛撫されるのを歯を食いしばって堪える妻とか、
相手の一言に答える代わりに冷たい一瞥をくれるだけとか、
会話がなくても思っている事が相手に伝わるツーカーの間柄とよく言うけど、、ツーカーしてる肝心の中身は「怒り」や「嘲笑」や「諦め」の気持ちだけで「愛情」ではないとか、なんかもうホント「あるあるネタの宝庫か!」というくらい「今そこにある危機」全開なリアルな夫婦の姿が詰め込まれておりまして、他人事とは思えないらしいですよ! あくまで仮定ですよ! 私の事じゃないですし、ホラ、漠然としたね、ホント一般的な話ですから! 我が家は円満この上なしで、ぜんぜん身に覚えがありませんけどね! ザックリと覚えが無い!!
「夫婦」って何なのでしょうか。
好きだから一緒になるんだけど、愛情は時として欠片も見当たらないほど消失してしまう。
暖かい家族を築きたいと思っているんだけど、空回りしたりすれ違ったりして、いつしか冷え冷えとした関係になってしまう。
そうならない為に、努力したり、我慢したり、気を遣いあったりして、なんとか保とうとする「夫婦」って、一体何なのでしょう。
ふと思ったのですけどね、「夫婦」ってジグソーパズルみたいなものなのかなぁ、と。
好きという感情はぴたりとはまりやすい外枠の部分でしかなくて、あとは延々、根気と忍耐でデコやボコを補い合わなけれなならない。
お互いのピースを探りあうのは、複雑で、判別が難しくて、地道な作業の連続ですが、ぱちんと合った瞬間の多幸感や、それらが集まってきちんと繋がり合った時に広がる美しい光景がたまらなくうれしい。
それは、お互いがお互いを理解しようとした結果であり、想いあった結果だから、より一層うれしい。
人には長所も短所も沢山あります。
ただひとつ、凹凸をはめ込むだけで終わりという訳にはいかない。
しかし、そのひとつひとつを補い合えるのが夫婦のいいところというか、醍醐味なのではないかと思うのですよ。
妻の気持ちに寄り添おうとせず、自分の気持ちばかりを押し付ける本作の夫・ディーンは、合わないピースを無理やり捻じ込もうとして角をボロボロにしてしまっているようでしたし、夫の真意を理解しようとしない妻・シンディは、無くなったピースを探すのを諦め、パズルをゴミ箱に押し込もうとしているように思えてなりませんでした。
もちろん、全てのパズルが必ず同じ光景に辿り着くとは限りませんので、いつまで探してもはまるピースが存在しないこともあるでしょう。その場合は、お互いの為に早めに切り上げる方がいいと思いますけどね!
本作のディーンとシンディがどんな未来を抱いていたのか。
その青写真は本当に別々のものだったのか。
二人が下した結論は、なんだかとっても勿体無いような気がするのですが、もしかしたらお互い距離を置くことで新たな視点を得る事が出来るかもしれませんし、その時、二人があんなに探しても見つからなかったピースが、思いがけないところから出てくるのかもしれない・・。 という少しの希望を持ちつつ、派手に打ち上げられる「しあわせ夢花火」に思いを馳せたアガサだったのでした。
現在夫婦関係にある方々は勿論のこと、順風満帆なカップル関係にある皆さんにおかれましても、ここは是非、愛が始まった日と失った日が重ね合わせて映し出されるこのクライマックスを観ながら、「描かれなかった5年間」に二人がどんな道のりを歩んできたのかを想像しつつ、同じパズルを完成させる為に気をつけたい様々な事柄を、今一度見つめ直して頂けたらと思います。
あ、でも、一緒に観たらダメですよ!
それはねぇ、緊張感がありすぎるというか、なんかもう観ている最中から酸素が薄くなりすぎて、陸に上げられた鯉みたいに口をパクパクさせちゃう危険性がありますからね!
観るなら一人、もしくは同性同士!
アガサとの約束だよ!!

