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『冷たい熱帯魚』

2011年05月09日
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【こんなお父さんはイヤだ】

・ すぐ再婚する

私のお母さんは、いつも優しく、家族想いで、ご飯もおいしく、自慢のお母さんでした。 お父さんも同じ気持ちなんだろうと思っていました。口数は少ないけど、きっと同じ気持ちなんだろうって。
でも、お母さんが亡くなってしまった時、悲しみから立ち直れずにいた私を気遣いもせず、お父さんはさっさと若い女を連れてきて一言、「美津子、この人が新しいお母さんだよ」って言ったんです。
信じられません。 もうお母さんの事忘れちゃったの? お父さん、一体何を考えてるの? ほんとにショックです・・・。

・ 女を見る目が無い
「新しいお母さん」は最低だった。
私に遠慮してるんだろうけど、いつもおどおどして目を見て話そうとしない。
そのクセ家の中をキャミソール一枚でゴロゴロしてたりして・・・ おまけにタバコも吸うし・・。
お母さんとは正反対の継母。 絶対に好きになんてなれないし、「お母さん」だなんて呼ぶ気にもなれない。 「あの女」で充分だよ。
お父さんマジ最低!最低!サイテー!!

・ 叱ってくれない
あの女が家にいるだけでイライラするから、思いっきり蹴飛ばしてやった。 さっさと出て行けばいいのに。 
お腹蹴ってやったから、きっとお父さんすぐ気付くと思った。 でも、お父さん何も言わなかった。
え?なに? これって「多感な娘に気を遣ってる」つもりなの? イミわかんないんですけど。
もうホントむかつく事ばっかで、適当に彼氏作ってなるべく家にいないようにしようと思った。
なんかあの女も最近私に対するイヤミのつもりなのか、晩ご飯冷凍食品ばっかだったりして。
それなのにお父さん、何も言わないとか。 マジばっかじゃねーの。

・ 威厳がない
そんな事ばっかだったから、最近イラついた時はスーパーで化粧品とかパクってたの。 別にお金が無いとかじゃなく、ストレス解消? そーゆーの。
で、ちょっとしくじっちゃったもんだから、スーパーのえらい人がうちに電話しちゃって、お父さんがきたんだけどあの女も一緒でテンション超下がるって感じで。
お父さん、さすがに怒るかなーって思ったんだけど、やっぱ全然怒んないの。 スーパーの人にへこへこ頭下げるばっかで、ちょーかっこ悪くてムカついた。 もういらねーよ、こんな親父。

・ 流されやすい
そんな時、スーパーの人のトモダチっぽいおっさんが入ってきて、なんか知らないけど熱帯魚の話とかし出して、万引きの事チャラにしてくれた。 どうでもいいけど、おっさんちょっとテンション高すぎ。あとボディタッチ多すぎ。 親父なんか言えよ。
で、聞いてたら、このおっさんも熱帯魚のお店やってるらしくて、そのまま場の空気でおっさんのお店に行く事になって。
そのお店にはおっさんの奥さんって人もいて、なんかちょーエロいかっこの奥さんでウケるんですけど(笑)
とにかくむちゃくちゃ話のテンポが速くて、気がついたら私はそのお店に住み込みで働く事になってた。 「お嬢さんにもきっちり勤労させなきゃね!」っておっさん。 マジでー?聞いてないんだけど(笑)
っていうか、その流れの途中、親父一回も私の目見ないんでやんの。 「あーうー」言ってるだけで、完全におっさんのペース(笑) マジ情けないって言うか。 いいの?それで?みたいな。
で、もーいっか、って。 どうせ私も、あんな家いたくなかったし。 ここ結構楽しそうだし。 おっさんはオヤジギャグが若干サムいケド(笑)  でもまぁお金ももらえるんなら、フーゾクやるよりかマシだし。  とりあえず親父ウザいし。 ホントウザいから。

・ 子どもに関心がない
入社初日。 いちおう親父とあの女もついてきたんだけど、頼むからさっさと帰って?って感じ。
もうさー、私の事厄介払い出来てホッとしてるのが見え見えで萎えるんだけど。
「・・美津子・・? あの・・その・・」って、話しかけんなよ!ウザいから! ホントはどうでもいいクセに! 今更なに親父面してんの? バッカじゃねーの?
イラついたからガン無視してやった。 もしかしたら何かもっと話しかけてくるかなーと思って、だってほら、離れて暮らすようになるんだし。ここのおっさん、ちょいちょいテンションおかしーし。
なのに私がシカトしたら、そのまま「・・じゃあ・・」って。
あ、そうか、って。   
心配とか、やっぱ無いんだ、って。
私の問題には、もう関わりあいたくないんだ、って思った。  マジこいついっぺん死ねばいいのに。

・ 現実逃避する
ここのおっさん・・じゃなくって社長(笑)は相当ヤバい仕事してるらしく、こないだ明らかにヤー公らしき連中がぞろぞろやってきた。
なぜか親父も呼ばれてるらしく、私が仕事してるトコうろちょろしてたと思ったら事務所に引っ込んだりして、ほんとイミわかんないっつうの。
社長と自称顧問弁護士(笑)のいかつい中年が、ヤー公をなんとかなだめてお引取り願ってるのをこっそり見てたら、親父まで青い顔してついてきててウケた。
っていうか、親父なにやってんの? もしかして、社長に言いくるめられてヤバい商売に手をつけてたりして・・・ ウケる(笑) 
スタッフの女の子が、親父が駐車場で運転席に座ったまんま「地球は約46億年前に生まれ・・」ってブツブツ言ってたよーって教えてくれたんだけど、またあいつ、お得意の現実逃避でもしてんじゃねーの? 宇宙はいいよなー・・って。 あー、ウザい。 星と一緒に消えればいいのに(笑)

・ 突如逆ギレする
朝、お店に行ったら、奥さんと社長が来てなくって。 でも、スタッフの女の子に聞いたら「ま、よくある事だから」って普通にしてるから気にしなかったんだけど、そしたら昼ごろ突然親父が店に飛び込んできて。
あれ?もしかして親父、社長と一緒にいたんじゃないの?って思ったんだけど、まぁどうでもいっか、ってガン無視してたら、「美津子、一緒に家に帰ろう!」だって。
はあ? なに寝ぼけてんの?みたいな。 何ネゴト言ってんだよ。 今更あんな家、帰りたくもねーよ。
でも親父、いつもならゴニョゴニョ言って引き下がるのに、全然引かなくて、私の腕つかんで引っ張りまわしやがんの。 ふざけんなよ!
何があったのかしんないけど、今まで全然真面目に向き合ってもくれないわ、話も聞いてくれないわ、私の気持ちなんて考えてもくれなかったクセに、何いきなり暴力とかふるってんだよ!ざけんなよ!キモイんだよ!
えらそうにするのが「父親らしい姿」だって勘違いしちゃったとか? 
言ってわからないなら拳でわからせる、ってか? ふざけんじゃねーよ!
私はてめえなんか怖くないから。
もう家族だなんて思ってないから。 とっととくたばれクソじじい!


【モンスターは誰だ】
《若い後妻から愛想を尽かされ、年頃の娘には見下され、うだつのあがらない生活を送っていた中年男・社本は、「縁あって」同業者の村田と家族ぐるみの付き合いを始めるのだが、あれよあれよと言う間に村田のペースに巻き込まれ、のっぴきならない地獄へと両足を突っ込む事になる・・。》
という「巻き込まれ型犯罪」を描いた本作。
そう、村田は本当に恐ろしい。 
自分の都合で他人の命を奪うという事に、ひとかけらの良心の呵責も感じない。 当然、奪った命に対しても極めてぞんさいな態度。 
人間性、というものが想像力だとか思いやりだとかそういうもので構築されているとするならば、村田はもはや人間ではないのかもしれない。 人の皮を被ったけだものなのかもしれない。

しかし、そんな村田に目をつけられ、まんまと悪事の片棒を担がされる事になる社本が、か弱き子羊なのか、というとそんな事は全くなく、むしろヒドイ。超ヒドイ。ていうかこんなお父さんヤだ。

社本が胃をキリキリさせながら過ごす「冷え切った家庭」を作り上げたのは、ヤニ臭い後妻でも反抗的な娘でもなく、社本自身なのではないかと思うのですよね。
一番繊細な年頃である娘にろくに相談もせず、いきなり若い後妻を連れてきたり、
誰かどう考えても揉めそうな、女二人の仲を取り持とうともせず、
新しいお母さんを受け入れられず、荒れ狂う娘を見て見ぬふりし、
「まぁ・・いつかみんなわかってくれるよね・・」みたいな、後ろ向きなポジティブさを全開にして、家族の問題から目を背けてきた社本。 そりゃーこじれるわ!徹底的にこじれるわ!

「家族」は、簡単には出来上がらない。 
細い糸をより合わせるように、一人一人の想いがぶつかったり繋がったり跳ね返ったりしながら絡み合う事で、太い絆が生まれるんだと思います。
一緒にいるだけでは、「家族」にはならない。 なったとしても、形だけでしかない。すぐ切れるような、脆い絆でしかない。
そして、一度綻んだ「家族」は、簡単には元には戻らないものなのですよ。

社本は社本なりに、村田というモンスターから「家族」を守る為に悪夢を受け入れてきたのかもしれない。
「おとうさん、がんばるからね・・!」と歯を食いしばり耐えていたのかもしれない。
でも、それは哀しいかな、ただの空回り。
想いは、相手に伝えないと意味を為さない。 自己犠牲は、評価してくれる人がいないとただの自己満足でしかない。
この間まで「ヘラヘラ笑う事」を「愛情を持って見守る事」とはき違えていた人間が、ナニがあったのか知らないけれどいきなりDV男に変貌して家族相手にキレまくったかと思ったら「生きるってのはなぁ・・・ 痛いんだよぉ!!」とか。
そりゃ娘さんも「イタいのはお前だコンニャロー!!」って言いたくもなりますよ!
そこに至る前に、まずこってりと会話しないと。お嬢さんの本音を引き出してあげないと。 モアートークですよおとうさん!!モアーモアー!

娘にとって、不可解な愛情を押し付けてくる父親の存在は、モンスターみたいなものだったのかもしれない。(※) 
だから彼女は最後に、勝ちどきをあげた。
混乱しながらも、勝ちどきをあげずにはいられなかったのではないでしょうか。

痛々しい家族だなまったく!
(※ もちろん、だから犯罪に巻き込まれて地獄に堕ちても自業自得だ、なんて言いたいのではないですけどね。 あくまで、娘の立場から見れば、という意味で。)


【父親】
「娘を拒絶しない」けれど「受け入れもしなかった」せいで、こじれにこじれまくった社本一家。
そんな社本を「息子のように」支配しようとした村田もまた、これでもかとこじれた親子関係のもと育ったようで。
物語の終盤、社本の反撃を受けた村田は、朦朧とする意識の中で「おとうさん・・ごめんなさい・・もうしませんから・・」とつぶやき続けます。 「おかあさん・・とめてよ・・おかあさん・・」とも。

村田は、他人の言葉に逆らえず自分の力で立つ事が出来ない社本と自分の幼少期を重ね合わせ、その社本の上に立つ事で、かつての自分を乗り越えようとしたのではないでしょうか。
社本の「父親」になることで、自分を押さえつけていた「父」と同等になろうとした。 いや、「父」を越える事が出来ると思った。
そしてその半面、不可解な程社本を挑発し、自分に攻撃してくるように仕向けたのは、「子どもの頃の自分(社本)」が立ち上がる事を望んでいたからなのかもしれない。

いずれにしても、村田の支配欲は「父」に対する抵抗だったように思えてなりませんでした。
しかし、結局立場は逆転し、「父」に殺された村田は再びか弱い子どもに戻る。
「父」という存在に蹂躙され続けた村田の姿が、とにかくひたすら悲痛でした。
その瞬間、村田は恐ろしいモンスターでも邪悪な存在でもなんでもない、ただの子どもにしか見えなかった。かわいそうな子どもにしか。

なんというか、非 常 に し ん ど い わ !(弱い面を全く見せない悪人のままの方がよっぽどか楽でしたよ!やめてよねホントに!泣くぞ!)


【カタルシスの欠片もない宇宙の片隅で】
ホンモノの人生は、いつも残酷です。
冷徹で、無慈悲で、期待は裏切られ、希望は打ち砕かれる。
物語の主役は自分のハズなのに、知らない誰かの舞台の上で踊らされているような虚しさに襲われる日々。
ホンモノの世界に、ヒーローなんていない。
ホンモノの人生に、胸のすくようなカタルシスなんて待ち受けていない。 

園子温監督が「死んでもいいくらい落ち込んでいる時期」に作ったとされる本作は、これでもかという程救いが無く、体の芯から凍り付いてしまう程冷たい感情に溢れ、最後の最後まで胸のつかえが取れない、近年稀に見るイヤ~な映画でした。
被害者は加害者になり、加害者は被害者に。
空っぽな人々の世界で、「自分」の存在は益々透けて無くなってゆく。
生命力に溢れているのは、追従笑いばかりが響く店内に君臨する狂気の王様だけ。

鼻歌まじりの解体シーンも、上滑りするオヤジギャグも、狡猾さに満ちた処世術も、ちっとも面白くなんてない。
全編通して、真顔で冗談を言われているような緊張感が漂っていて、とてもじゃないけど笑えなかった。
茶化しても茶化しきれない程、狂気が日常的に満ち溢れすぎているのが、本当におそろしかったです。

この作品を好きかキライかと問われたら、私は「キライ」と答えるでしょう。
一生忘れる事の出来ない恐るべき作品だとは思うけれど、「好き」なんかじゃない。「好き」になれる訳がない。
怖すぎる。 
ワロエナイ。 
でも、鑑賞できてよかったと思う。
観て済んだらあっという間に消化されて、心からスコーンと抜けてゆくような作品が重宝がられる世の中で、しわくて噛み難くて胃に悪そうで胸焼けを起こしそうな本作が作られた事はとても素晴らしい事だと思います。
すごくイヤな気持ちになった、とても有意義な146分間でした。

ホンモノの世界に都合のいいハッピーエンドなんてない。
確かにそうかもしれない。
けれど、抗う事は出来ると思う。 
大きな宇宙の片隅で、もがいてもがいてぺシャリと潰れてしまった社本の姿にショックを受けながらも、「ええか、これはダメなパターンやで!」と胸に刻むことから、まずは始めたいものですね。


最後になってしまいましたが、恐怖の大王・でんでんさんを始め、社本役の吹越満さん、社本の妻役の神楽坂恵さんの破滅っぷりが最高でした。 「普通じゃなくなった」普通の人を自然に演じすぎていてすごい!
ここまでの演技を引き出した監督も素晴らしいですし、それに充分すぎるほど応えた俳優陣にも圧倒されました。
そして、そんな濃いキャストの中で一番印象に残ったのは、でんでんの奥さんを演じていた黒沢あすかさん。
怖くて、可愛くて、美しくて、愚かで、憐れで、エロくて、最高の女優さんだと思います。

「黒沢あすかに踏まれるツアー」があったら、オレは迷わず応募するね! 前泊も厭わないね!



※関連レビュー・・・弩級の快作「冷たい熱帯魚」 - 深町秋生のベテラン日記 弩級の快作「冷たい熱帯魚」 - 深町秋生のベテラン日記


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