お産についておもったこと。
2010年09月17日
河瀬直美監督『玄牝』公式HP
お産はハンパない。
人づてに聞く内容からしてハンパない。
鼻からスイカをひりだすような痛みだとか、腰に木の杭を打ち込まれるような痛みだとか(食人族のアレってことか!)、想像しようと思っても出来ないクラスの痛みを引き合いに出されて、恐怖だけが増幅するお産。
なので、そのやり方を重要視するヒトは多いでしょうし、こだわりたくなるのは当然といったら当然の流れなんじゃないかと思います。
ちなみにアガサがこだわったのは「出産後に振舞われる豪華ディナー(通称お祝い膳)」だけでしたが、実際出産に至るまでには色んな方法を調べました。
その中に、“自然出産”という選択肢もありました。
アガサは基本的に
「うちの中なんて全然特別じゃないじゃん!産むんなら小綺麗な部屋がいいよう!気分だけでも優雅でいたいよう!だいたい、産んだ後に家の片付けとかヤだよう!」
という超グータラな性格だったので、“自宅出産”という選択肢は即刻除外してしまったのですが、ちっとも魅力を感じなかったと言ったら、それはウソになります。
自分が本来持っているであろう力で産みたい。
自分が好きな姿勢で、好きなタイミングで、機械に囲まれるのではなくリラックスした環境で産みたい。
それらをサポートしてくれる助産院を探した事もありました。
でも、結局すぐ諦めました。 だってなにかあったら怖いから。
結局個人の産院を選んだアガサの陣痛は3日間に渡って続き、やっとの思いで産まれたちびっこは先天性の病気を持っていた為、数日後に大きな病院に運ばれました。
ずっとずっと後になって、落ち着いた頃に、世帯主さまと「助産院で産んでたらどうなってただろうねー」と話しました。
助産師さんに付き添って貰い、自然の中で、自然のモノを口にしながら、薬に頼らず産むという方法も大いに賛成です。
病院で看護師さんに看て貰い、LDRの中で、医療器械のサポートを受けて、時に必要かつ効果のある薬を投薬してもらって産むという方法も大いに賛成です。
要は、こどもが無事に産まれて、母体も健康な状態でいられるなら、どんな方法でも賛成です。
ところが、自然出産を愛する方というのは、とかく“病院で産むということ”を否定したがる傾向があるようで。
最初に挙げた映画のストーリーの中にも、
知らないうちに陣痛促進剤を打たれて、分娩台に乗った瞬間に吸引されて、お腹を押されて……だがら、生まれた瞬間、自分が大事で、子どもを可愛いと思えなかったんです
と、“不本意な投薬”や“不本意な処置”を受けた結果産まれたこどもには、愛情が芽生えないんじゃないの?と不本意な助言をしようとしているとも受け取れるようなくだりがあるのですよね。
いや、それなんかおかしくないか?
妊娠がわかってから出産に至るまで約9ヶ月。 短いような長い数ヶ月。
芽生えた命に対する愛情って、その期間にじっくりとしっかりと大きくなって行くものなんじゃないのでしょうか。
産み方は確かに、今後の自覚というか、自信に繋がるとても大事な過程だと思う。
でも、そこが全てみたいになっちゃうのはヘンな話なんじゃないか。
自分が納得行かない産み方だったから、こどもに対する感情にしこりが残るなんて事が本当にあるとするならば、そんな悲しいことってないと思うんですけどねぇ。
それと、自然出産を薦める方に多く見受けられるポイントに、“薬に頼らず自力で頑張る”というのがあるような気がしてしまいまして。
この映画に出てくる産院の院長さんの主張にも、こんなのがあるのですが、
神に従って生活し江戸時代のように農耕社会で生きておれば、ちゃんと出ます。
それができないのは、妊娠中にゴロゴロして、パクパク食べて、ビクビクしてね、
神に従った生活してないからいいお産ができないんです。 (※抜粋)
吉村医院の哲学 - NATROMの日記
w o o …
実はこの産院は、先日めざましテレビの1コーナーにも登場しておりまして、“促進剤ナシの自然出産”にこだわる妊婦さんが60時間の陣痛に耐え、無事出産したというチョットイイハナシを放送していたのですが、その中でもそこの助産師さんが、
陣痛促進剤が悪いとかは思わないが、それがなくて産んだというのは自分にとってすごく嬉しい。諦めないで頑張れたので。
とかなんとか言っておりました。
うーん・・・なんかしっくりこないなぁ。
陣痛促進剤を使うのは、頑張るのを諦めてるじゃなくて、胎児の事を優先するからなんじゃないのかなぁ。
それを妊婦さんの“甘え”や“弱さ”みたいに受け取れるような言い方で片付けてしまうのは、ちょっと話を飛ばしすぎな気が。
前記の院長さんにしても、江戸時代みたいな生活をしていれば薬無しでお産できる。現代っ子おまえら甘えんなよ!と言いたいようなのですが、現代的なお産も全然甘くないですからねホント。
陣痛促進剤を使おうと、帝王切開だろうと、お産は痛いし、しんどいし、命がけなんですよ。
薪を割ったり、雑巾がけしたり、数十時間の陣痛に耐え続ける事と比較して楽なんてコトはない。
お産はどうやったって苦しいんです。
もし、自然出産が目指しているものが、“努力”“根性”“完全勝利”みたいな類のモノなんだとしたも、それって現代医学による出産も同じですからね。 形がちょっと違うだけで。
苦しみに耐えた時間が母親の評価に繋がるなんて、そんな馬鹿なものさしは頼むから捨てて欲しいです。
アガサは自然出産を否定するつもりも、病院での出産を猛プッシュするつもりもありません。
それぞれにいい所はあると思いますし、自分が納得いくかたちで出産するに越したことはないですものね。
ただ、お母さんになるヒトには、どんな出産方法だろうと、自分に誇りを持って欲しいし、自信をもってこどもを愛して欲しいです。
そして、自然出産を愛しているヒトや、病院の対応に絶対の信頼をおいているヒトは、互いの存在を否定するような言い方だけはやめて欲しい。
くれぐれも、お産が自己満足で終わらないように。 そこから先の方が大変なんだから。
河瀬監督の『玄牝』が、無意味な現代医学否定ではなく、自然出産の美しさや厳しさを容赦なく映し出した映画である事を願います。
あと、テレビ局は、画的に面白いとかドラマティックに編集しやすいという理由だけで自然出産を取り上げたり、わかりやすく比較する為だけに病院での出産を寒々しく紹介するの、もうやめませんか。
こどもが産まれて来る瞬間は、場所がどこでも美しいはずなんだけどなぁ。
あと、最後に一言。
めざましテレビでは、60時間の陣痛を薬も無しに乗り越えたコトを素晴らしいコトみたいに紹介していましたけど、それってあかちゃんがおなかの中で60時間しんどい思いをしてたってコトなんですからね。
か弱い命に60時間苦しい思いをさせるとか、おまえらどんだけドSやねん。 (何事もなく無事産まれてよかったなぁ!)、

