『パンズ・ラビリンス』
2007年10月19日

第79回アカデミー賞 撮影賞・美術賞・メイキャップ賞 受賞作品

今年の2月に行われた、“元祖!アカデミー賞”。
数々の候補作の中で一番興味を惹かれ、尚且つ謎に包まれていたのがこの 『パンズ・ラビリンス』 でした。
一見可憐な少女のファンタジー。
しかし、そこはかとなく漂ってくるのはドス黒い腐臭・・・。
なんなんだ?
どうなんだ?
『ナルニア』 なのか 『タイドランド』 なのか、お前さんは一体どっち側なんだい?!
・・・と思いつつ念願叶って鑑賞してみましたら、なんと 『ホステル』 だったそうな。
とっぴんぱらりんのぷぅ。
あらすじ・・・
時は1944年。
風雲急を告げるスペインのとある山中にやって来た母と娘。
母の再婚相手である、ビダル大尉の一連隊に合流する為である。
母の胎内には小ビダルがおり、ぶっちゃけ大ビダルは母体に興味は無い模様。
跡継ぎさえ無事生まれれば、それでいい。
娘・オフェリアは、そんな冷徹な義父・ビダルを容認できる筈も無く、もっぱら大好きな本と共に現実逃避の日々なのでした。
そんなある日、オフェリアの前に
迷宮の奥でオフェリアを待ち構えていたのは、
パンはオフェリアを一目見るなりうやうやしく一礼し、
「お待ちしておりました。モアナ姫さま。」
と、スルっと言い放ちます。
なんとオフェリアは、
その昔、地上に憧れ下界を離れた為に全ての記憶を失ってしまった、魔法王国の伝説のプリンセス・モアナの化身
らしいのです。 (※パン談)
辛く苦しい現実世界が、自分の本当の居場所では無いと
本来の姿=モアナ姫 に戻る為には、
次の満月の晩が来るまでに、3つの試練をクリアしないといけない
らしい。 (※パン談)
試練に耐え、魔法王国に戻りたいオフェリア。
しかし、そんなオフェリアが渋々身を置く現実世界に於いても、義父・ビダル大尉による反政府ゲリラの掃討作戦が行われようとしており、その蛮行の余波は否応無く、オフェリアや彼女を取り巻く人々を巻き込んで行くのでした。
オフェリアは、無事魔法王国の姫君に返り咲く事が出来るのでしょうか?
そして諸悪の根源・ビダル大尉に、正義の鉄槌は下されるのでしょうか?
よろしかったら今日もここらで一押し・・・!

アガサが観に行った、“岡山映画ファンの心の拠り所・シネマクレール”での本上映時の客層はほぼ、2~30代女子と50代夫婦(上品そうな感じ)。
平素から良質なヨーロッパ映画などをよく上映している場所柄からか、この作品に対しても「オスカーお墨付きの大人のファンタジー」と思われていた様に見受けられます。
もしかすると、「いたいけな少女のひたむきな姿に感涙必至」だとも。
で、蓋を開けてみると 『ホステル』 あり、 『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』 あり、 あまつさえ 『殺し屋1』 までご登場と言う展開でしたので、上映後の空気感の微妙な事と言ったら・・・。
映画館を後にするみなさんの視線が、少し虚ろだった様に見えたのは気のせいだったのでしょうか。
・・・まぁなんだ・・
とりあえず・・ ・・・ドンマイだ!
それはさておき。
このドス黒いファンタジーを彩るのは、
「ギチギチ」と不気味な羽音を立てつつ迷宮に誘う、節足動物昆虫類のナナフシ。
オフェリアの夢先案内人となる、悪魔的風貌な山羊頭のパン。
スライムと泥に埋もれ蟲を喰らう、醜悪な巨大いぼガエル。
眼球が無く体中の皮膚が垂れ下がる、人喰い怪物・ペイルマン。
伝説の悪魔植物・マンドラゴラ。
などなど。
ナルニア国からもファンタージェンからも爪弾きにされる事請け合いの、可愛げの無さがチャームポイントな、将来有望な皆さんです。
オフェリアは、無慈悲で残酷な義父・ビダル、病で床に伏した母、反政府ゲリラのスパイでもある心優しい家政婦などに心を悩ませながらも、パンに唆されるがまま思い込んだら試練の道をひた走るのみ。
そもそもパンは本当に魔法王国の使者なのか?
うぶなオフェリアをたぶらかして、ヨクナイ事の共犯者に仕立てようと言うだけではないのか?
実際問題、パンはオフェリアの問い掛けを上手い事交わして、何だかウヤムヤなままに試練に向かわせ、獲ってきた宝物を頂戴するのみ。
苦難に陥ったオフェリアをバックアップする事も無く、失態に対してはとことん無慈悲。
ついでにオフェリアの部屋に入って来る時も無許可無ノック。
敏感なお年頃でしょうが!(`Д´#)


百歩譲って、ノックくらいせえよ! ノックくらいよぉ!!
で、無慈悲なパンもさることながら、現実世界の極悪ナンバー1・ビダル大尉の描写がまた、ねちっこい事この上なし。
「これって、本筋に必要ないんじゃ・・」
と頭を過ぎってしまうような、反政府ゲリラの拷問シーン。
恐ろしげな器具の説明をいちいち嬉しそうにするな━━━━っ!!
蟲といい、おぞましい試練の数々といい、くどさ満点の鬼畜大尉といい、ギレルモ・デル・トロ監督は本懐を遂げてさぞ満足でしょう。
“無情”と“不幸”のつづれ織りのの様な現実世界と、“グロテスク”で“孤立無援”な迷宮世界。
どちらで生きる方が幸せなのか。
どちらで生きるのが楽なのか。
きっとどちらも厳しく、容赦ない世界なのでしょう。
生きるというのは、本当にしんどいものなのです。
自分の嗜好をたっぷり詰め込みつつも、存分に観客の胸をうつ濃厚なドラマを作り上げたデル・トロ監督の技量に感服しました。
ファンタジー好きな方も、猟奇好きな方も、どちらでもない方も、是非観て頂きたい作品です。
で、・・・まぁなんだ・・もしドン引きしてしまっても
とりあえず・・ ・・・ドンマイだ!
※ 追記 (本編のオチとナルニア国物語(原作)のオチに触れております)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
さて、本編のラストですが、オフェリア少女は義父・ビダルに撃たれ、死んでしまいます。(いきさつは割愛します)
その“死”が、
実はオフェリアに課せられた最後の試練であり、見事試練に耐えたオフェリアは魔法王国に招き入れられ、最愛の王と王妃に温かく迎えられるのでした。
・・・と言うシーンの後、現実のオフェリアの死に顔を映し出してエンドクレジットです。
私がこのラストを観て真っ先に思い出したのは、『ナルニア国物語・最終巻/さいごの戦い』のラスト。
ナルニア国を訪れていた子供(や大人)たちは、実は現実世界の列車事故で死んでしまっていた。つまり、ナルニア国とは死後の世界だった。
と言うラストです。
子供心に、
「なんだかよく判らないけど・・これは非道いんじゃあるまいか!」
と、救われない気持ちになった衝撃のオチは、もしかするとキリスト教徒の方には広く受け入れられるオチ方なのかもしれませんが(確証はありませんが)、少なくとも私は大いに落ち込んだものでした。
戦争の続くつらい現実世界を捨て、希望溢れるファンタジーの世界で末永く暮らして行こう。
そんな風に(私には)思えて、なんだかとても哀しかったのです。
オフェリアが死後、“辿り着いた場所”。
(あるいは“思い描いた場所”だったのかもしれませんが、本作ではナレーションでオフェリアが真の姫君であった事を語って終わりますので、やはりここは“辿り着いた場所”とします。)
その場所は、無情な現実とも孤立無縁な迷宮とも違う、完全に心配事のない世界。
オフェリアに対して100%の愛で迎えてくれる、幸せに満ちた世界なのですが、やはりそこは死後の世界なのです。
天国に行けたんだね。 と思えば救われますが、やはり私はオフェリアに生きて欲しかった・・・。
死に瀕したオフェリアの元に懸命に駆けつけた救護の手によって、一命を取り留めて欲しかった。
ナルニア国を愛し、何代にも渡って行き来していたルーシーやエドマンドたちにも、生きてその魔法を子や孫に伝えて欲しかったのと同じ様に。
現実を生きてゆくのは苦しいけど、死ぬよりも困難な事だからこそ価値があるのではないでしょうか。
“現実逃避”は、帰れる“現実”があるからこそ成り立つのであって、“逃避”が戻らぬ旅になるのでは、悲しすぎるじゃないですか。
早すぎる死に、救いなど無い。
・・・実際の世界各地で容赦なく死んでゆく子供たちの多さを思うと、このラストであるべきだった。とは思うのですが、凄まじい虚脱感に襲われてしまう映画だったのでした。
♪♪どちらのバナーでもどうぞご遠慮なく♪♪ → その“死”が、
実はオフェリアに課せられた最後の試練であり、見事試練に耐えたオフェリアは魔法王国に招き入れられ、最愛の王と王妃に温かく迎えられるのでした。
・・・と言うシーンの後、現実のオフェリアの死に顔を映し出してエンドクレジットです。
私がこのラストを観て真っ先に思い出したのは、『ナルニア国物語・最終巻/さいごの戦い』のラスト。
ナルニア国を訪れていた子供(や大人)たちは、実は現実世界の列車事故で死んでしまっていた。つまり、ナルニア国とは死後の世界だった。
と言うラストです。
子供心に、
「なんだかよく判らないけど・・これは非道いんじゃあるまいか!」
と、救われない気持ちになった衝撃のオチは、もしかするとキリスト教徒の方には広く受け入れられるオチ方なのかもしれませんが(確証はありませんが)、少なくとも私は大いに落ち込んだものでした。
戦争の続くつらい現実世界を捨て、希望溢れるファンタジーの世界で末永く暮らして行こう。
そんな風に(私には)思えて、なんだかとても哀しかったのです。
オフェリアが死後、“辿り着いた場所”。
(あるいは“思い描いた場所”だったのかもしれませんが、本作ではナレーションでオフェリアが真の姫君であった事を語って終わりますので、やはりここは“辿り着いた場所”とします。)
その場所は、無情な現実とも孤立無縁な迷宮とも違う、完全に心配事のない世界。
オフェリアに対して100%の愛で迎えてくれる、幸せに満ちた世界なのですが、やはりそこは死後の世界なのです。
天国に行けたんだね。 と思えば救われますが、やはり私はオフェリアに生きて欲しかった・・・。
死に瀕したオフェリアの元に懸命に駆けつけた救護の手によって、一命を取り留めて欲しかった。
ナルニア国を愛し、何代にも渡って行き来していたルーシーやエドマンドたちにも、生きてその魔法を子や孫に伝えて欲しかったのと同じ様に。
現実を生きてゆくのは苦しいけど、死ぬよりも困難な事だからこそ価値があるのではないでしょうか。
“現実逃避”は、帰れる“現実”があるからこそ成り立つのであって、“逃避”が戻らぬ旅になるのでは、悲しすぎるじゃないですか。
早すぎる死に、救いなど無い。
・・・実際の世界各地で容赦なく死んでゆく子供たちの多さを思うと、このラストであるべきだった。とは思うのですが、凄まじい虚脱感に襲われてしまう映画だったのでした。


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監督 ギレルモ・デル・トロ 主演 イバナ・バケロ 2006年 メキシコ/スペイン/アメリカ映画 119分 ファンタジー 採点★★★★ もうこの位の歳にもなると、ほとんど見なくなった悪夢。稀に見たとしても途中で「あぁ、夢を見ているんだな」と気付いてしまい、もう興醒め甚だ
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