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『キンキーブーツ』

2007年03月04日
20070303231400.jpg  原題『KINKY BOOTS』 ・ ・ 直訳『変態ブーツ』


また変態かよ?!!

直訳するとおかしな事になってしまいますが、本作はいたってノーマルな、心温まる物語でした。
・・・ドラッグクイーンは大量に出て来ますが、内容はいたってノーマルです。

ところで、私は女ですが、生まれてこの方一度もハイヒールを履いた事がありません。
理由は単純。

サイズが無いからです。

大概のヒール物やロングブーツは、足が入りません。
仮に入ったとしても、歩くだけで拷問です。
という訳で、とても他人事とは思えない、ドラッグクイーンの皆さんの“靴問題”をテーマにしたこの作品は、観るも涙語るも涙、涙なみだの物語なのでした。

それにしても、自分には履きこなせないであろう、華麗なキンキーブーツ(女王様ブーツ)なのに、どうしてこんなにも魅力的に感じるのでしょうか。
“女性”という遺伝子の中には、ブーツに反応する何かが組み込まれているのかもしれませんね。

もちろん、この“女性”と言うのは外的な性別だけではなく、生まれもっての内的な性別も含めてですよ。


あらすじを書きますと、
100年以上続く、老舗の靴工場がありました。

若き4代目は、靴を愛してはいるものの、工場に骨を埋める覚悟は出来ていませんでした。
そんな中、先代(父親)が突然死亡し、流されるがまま跡を継ぐ事になった4代目。
しかし、近年の“薄利多売”の波は靴業界にも押し寄せており、彼の工場が作っている様な100年履ける丈夫な靴より、10ヶ月で買い換えてもらえる安い靴の方が、販売側からは求められていたのです。

4代目の靴工場はあっという間に窮地に立たされ、工場閉鎖の危機を迎えます。
とりあえず、15人の工員をリストラする4代目でしたが、その中の一人・ローレンが立ち去り際に残した、
「業務縮小を嘆いてばかりいないで、新しい市場を開拓したらどうなのよ?」
と言う言葉にとあるアイディアが閃きます。

それは以前にロンドンで、偶然出会ったドラッグクイーン・ローラの事。
女性用のヒールシューズを、無理やり履いていた彼女(彼?)は、靴の耐久性の悪さに悩んでいたハズ・・・。

うちの職人技を駆使して彼女(彼?)用のヒールシューズを作ったら、そっちの市場を獲得出来やしないか?!

4代目は、カリスマ・ドラッグクイーンのローラを説き伏せて、田舎にある靴工場のスーパーバイザーとして雇い入れるのですが・・。


面白い映画は、オープニングからして面白い。
よく言われている事ですが、この作品もまさにそう。

画面に最初に映ったのは、黒人の女の子で、誰かを待っているのか退屈そうな表情です。
しかし、カバンの中の赤いパンプスに履き替えた少女は、自然と体が踊りだし、幸せそうな表情に変わってゆきます。
その時、少女の父親らしき人物が、怒った表情で少女を呼び寄せます。
身を固くして、父親の元に駆け寄る少女。
「早く来んか!このバカ息子!!」

む・む・むすこぉ~?!

もうこの冒頭のシーンだけで、完全にこの映画を好きになってしまったのでした。
日本の有名な慣用句で言うなら、
つかみはオッケー!
状態です。

物語の主人公は、靴工場の若き4代目・チャーリーと、ドラッグクイーンのローラ。
二人はどちらも、今現在身を置いている状況に違和感を覚えて、疎外感を抱えています。

チャーリーは工場を継ぐつもりは(そんなに)無く、父親が亡くなった為成り行き上継いだものの、潰れそうな工場の経営にも、工員からの期待にも消極的。

ローラは、厳しい父親から“男”としての教育を受けて育ったものの、自分の本質を抑える事が出来ず、勘当されてまでもドラッグクイーンとして生きる道を選びます。
しかし、その選んだ道は平坦な訳も無く、どこに居ても闘いの日々です。

田舎にあるチャーリーの靴工場に入ってからも、男性社員から散々嫌味を言われるローラ。
ローラのような第3の性の持ち主が、のどかな田舎町なんかに出現したら、町民との衝突は火を見るより明らかな事なのですが。

そして彼女(彼)が唯一、自分のあるがままで居られるクラブの中でさえ、心無い興味本位の男性客に野次られ、そんな客を軽くあしらいつつも、舞台裏では涙が零れそうになるローラ。
彼女自分が選んだ道ですが、彼女(彼)の人生に平安な日々など無縁のように思えて、観ていると切ない気持ちになってしまいました。

しかしその人生は、彼女(彼)が痛みに耐えながらも履き続ける事で、自分の中の“女性”を証明しようとしている、キンキーブーツと同じで、自分を偽って手にする安穏な人生よりも、闘いや孤独と共に過ごす、困難でも自分に誇りを持って生きてゆく道の方がマシだと思っているのです・・・。

なんと誇り高き女性(人間)なのでしょうか。

師匠、と呼ばせて頂きたい!!


チャーリーの工場でも、受け入れられない事は判っていながらも果敢に渦中に飛び込み、自分を忌み嫌う相手とも真っ直ぐ向き合う事で、徐々に自分を受け入れさせるローラのパワーは感動的です。

そんなローラの存在は、男性・女性と言う小さなくくりでは無く、人間としての誇りを私達に考えさせてくれるような気がします。

ハートウォーミングな人情モノに仕上がっていますが、作品自体にそんなに甘さはありません。
むしろ、ローラの苦悩やチャーリーの迷いやチャーリーの婚約者との衝突など、楽しくないエピソードの方が作品を占めています。

それなのに、観終わった時は心が温かい光で満たされている・・。
それはこの作品に出てくる登場人物たちが、みんな温かいからなのでしょう。
ローラに意地悪する工場の工員や、チャーリーの心を理解しようとしない婚約者も、みなホントは優しい人たちなんですね。
彼らを見ていると、“自分と違う色をした他人を受け入れられない”という人間の本質と、それを乗り越え、受け入れてゆく“人間という生き物の素晴らしさ”を強く感じられます。

『ロッキーⅣ』じゃないですが、“人は変われる”んです。 きっと。

ローラやチャーリーが口にするセリフの数々もとても素晴らしく、人生の参考書になりそうな勢いです。
小粒でキリリと面白いイギリス映画特有の、ちょっと苦く、ちょっと甘い、心の栄養剤のような作品でした。


ちなみに、主役を演じていたのが『スターウォーズEP2&3』での若きオーウェン叔父さんでお馴染み、ジョエル・エドガートン。
意外と男前でビックリしました。
それと『ショーン・オブ・ザ・デッド』の、“使えないと思わせておいて実は動けるデブ”が忘れられないニック・フロストがおいしい役で出ていた事が、私のツボにはまりまくりでした


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