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『ヘルドッグス』

2022年09月22日
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あらすじ・・・
元警官がヤクザ組織に潜入します。

深町秋生さんによる人気バイオレンス小説「地獄の犬たち」が映画化される。 と聞いた時は心が躍りました。
しかも主演は格闘技を極めし「アイドル」として有名だった岡田師範こと俳優・岡田准一さん。
こんなもん、期待するなというほうが無理というもの・・・ 
しかし一方、原作小説には深町印とでも呼びたくなるような、陰惨極まりない暴力や拷問、人の心を破壊してゆく無情な展開がてんこ盛り。
我々は原作のそれを愛しているがゆえに、はたして日本の映画界がどこまでこの世界観を表現できるのかという不安を抱きました。
そして、今日、ついに映画を観てきて、わたしはおおいに胸をなでおろしたのでした。

まあね・・・ まあ・・・ ま、そりゃカットするわな・・・!

(※ キャラクター紹介PV。 ナイスなセンスが光るキャスティング)

(※ 以下原作含めネタバレしています)



まずは原作で現役警官だった主人公兼高が元警官に変更。
まあね・・・ 潜入捜査ものとはいえ、現役をうたった警官がヤクザになって殺し拷問なんでもござれってのはマズいですよね・・・ いちおう法治国家ですからね・・
そして元力士や元レスラーなど、実際みんなうすうすは感じているけどはっきりと反社との関係を描くわけにはいかない部分もカット。
まあね・・・ 元ボクシング世界チャンピオンで暴力団関係者とかふつうにいましたけどね・・・ そもそも「興行」ってそういうシノギだったわけですし・・・ ただまあマズいかもしれないですよね・・・いろいろと・・
潜入捜査官(現役警官)がヤクザのトップになってるし、なんだったら次のトップも現役警官にさせて、警視庁が関東ヤクザを牛耳ろうとするというくだりも省かれていましたね。
いやいちおうね・・・ 現トップが実は潜入捜査官だったというタネ明かしはありましたが、えらくあっさり流されていましたよね・・ まあそこあんまり深堀りしないほうがいいもんね・・・ いちおう法治国家ですからね・・
なにより、原作で一番むごくて一番壮絶だった、警視庁組織犯罪対策部の阿内とその家族の拉致監禁エピソードがバッサリいかれていたのは、もう納得も納得も超なっとくですよ。
いやぁ~、むりむり! 岡田師範主演の映画で「さらってきた小4の女の子とその母親を裸にむいて、その目の前で父親を拷問し、さらには女の子への性的拷問未遂」なんかできるわけないって!!! っていうか誰が主演でもむりだって!! 今自分で書いててもどうかしてるって思いましたからね!

というわけで、倫理的にアウトと判断されたのか、もしくは日本の商業映画としては無理と判断されたのか、わたしが不安に感じていた部分はほぼ取り除かれ、その分岡田師範がいかに強く、いかに頼れて、いかに面倒見がよくて、いかにかっこよくて、いかに無精ひげが似合うかにリソースが割かれた結果、岡田師範史上最強の愛されヒロインが爆誕することに。
関東最大のヤクザ組織の会長・十朱(MIYAVIさん)は岡田師範の根性に惹かれ、
十朱の右腕である組長・土岐(北村一輝さん)は岡田師範の腕に惹かれ、
土岐の愛人・恵美裏(松岡茉優さん)は岡田師範の男っぷりに惹かれ、
制御不能のサイコボーイ・室岡(坂口健太郎さん)は岡田師範のなにもかもに惹かれるという、全方位モテが展開され、もはやバイオレンス潜入捜査ものを観ているのか別冊少女マーガレット連載の学園恋愛ものを見ているのかわからなくなってきます。
いや、わかるけど。
っていうか、「制御不能のサイコボーイ」ってすごいキャッチコピーですよね。
昭和のアイドルか! ちょっとエッチな美新人娘(ミルキーっこ)なのか!

最強のモテ力を手にした岡田師範とヤクザの面々とが織りなす恋模様。
恋模様といったら語弊があると思われるかもしれませんが、実際のところ、原作の時点でも強く描かれていたブロマンス要素が、映画では匂わせをさらに超え、強制的に嗅がせるぐらいのレベルでこれでもかと押し寄せてくるのですから、これはもう実質恋模様でいいと思います。
特に、お互い身元がバレた十朱と兼高があえて頭への銃撃は避け、防弾チョッキ越しでのみ撃ちあい倒れ込むシーン。
寄せ合った顔と顔、上気した頬、乱れた吐息、十朱のうっとりとしたまなざし。
これ事後じゃん!完全にコトが終わったあとのお布団タイムじゃん!!
室岡に至っては「オレとこの女どっちが大切なんだよ!」って告白してますし。
その直前、恵美裏から「あたしを撃ったら兼高が怒るわよ・・・だってあたしは兼高の女だから!」と渾身のマウントをかまされていたとはいえ、ド直球にしてピュアピュアな告白じゃないですか。
もうこれはね、兼高さんは答えてあげないといけない。
照れてる場合じゃないですよ。 真剣な告白なんだから、真剣に答えてあげるのが礼儀というものです。
それにだいじょうぶ、我々はもうみな、あなたの答えなど聞くまでもなくわかっているのだから・・・ 

言っておあげなさい・・・ 室岡くんに言っておあげなさいな・・・ 
・・そうそう・・・ 答えは 「マッドドッグで始まって、ヘルドッグで終わる、か・・・」 ・・っていうね・・・・

え っ ?? そ う じ ゃ な く な い ????!!!!


ここまでブロマンス一直線でやってきたんだから、そこは「もちろんお前だったよ」じゃない?撃った上での過去形じゃない?なにその唐突な犬大喜利?うまいこと言うてはるわ~じゃなくない?っていうか劇中マッドドッグって呼ばれてたのほぼ無かったことない?大丈夫そ?

映像化に際して無理そうな部分は潔く省き、原作にはなかった異性間での色恋描写を盛り込み、ヤクザの事務所は打ちっぱなしのコンクリートでひたすらスタイリッシュに、廃墟は東南アジア風の美術装飾でオリエンタルに、泥臭かったカラオケ大会はイタリアンオペラに、兼高の精神的脆さ(まともさ)は封印し、サイコパス設定だった室岡は幼馴染エピソードで人間臭く。
原作がすきなわたしから観ると、正直「毒を抜かれて漂白されちゃったか~?ヘイヘ~イ?」と感じてしまった部分もありましたが、処理場での戦闘、室岡や十朱や典子などの原作から抜け出してきたようなキャスト陣、そしてなにより岡田師範による格闘技指南の数々は非常に見ごたえがありましたし、これはこれでおもしろかったと思います。

あとね、もしも、万が一原作未読という方がいらしたら、ぜひ「地獄の犬たち」に始まる三部作を読んでみていただきたい・・・エグくて悲惨でめちゃくちゃサスペンスフルでちょうおもしろい小説ですよ!


- おまけ -
・ いちばん岡田師範にガチ恋だったのは、原田監督だった説ある
・ 冒頭、師範に格闘技を指南してもらった室岡の中の坂口健太郎さんのキャハハウフフ演技、お芝居を超えたサムシングを感じた
・ 正直、師範に直接指南してもらえたら誰だってみんなふつうにキャハハウフフしちゃうと思う
・ 巨大ヤクザ組織の抗争を描いたお話なので、対立関係や人間関係などは作品を理解する上での肝になってくると思うのですが、「いうてもヤクザの名前とか生息地とかシノギとかいちいち説明しても覚えきれないだろうしみんな大して興味ないっしょ?」とばかりに、喋っている途中で他の音をかぶせたりして説明セリフをびゅんびゅん飛ばしてゆく姿勢、きらいじゃない
・ 要するに殺し合いですよ、殺し合い! という強気の姿勢、きらいじゃない
・ ただ、説明をとばした結果「MIYAVIがえらい人なのはわかるけど、どれぐらいえらいのかよくわからない」状態になり、抗争のスケール感がぼんやりしてしまったことは否めない
・ 尺の都合上なのか、関西ヤクザがすぐMIYAVIを裏切るのもよくない。 あれではMIYAVIがただ3億をすった人に見えてしまってすごさが伝わらない
・ 大物MIYAVIの護衛についた兼高と室岡の描写が全部よくない。 わざわざ説明セリフで「防弾バッグを常備すること」って言ってたのにほとんど持ってなかったし、移動警護中にバッグで壁を作るシーンに至っては皆無だった
・ でっかい車から降りて無防備に歩いてゆくMIYAVIと、その後ろをてくてくついてゆく護衛3人。 いや守れてねえじゃんそれ
・ 処理場の管理人を村上淳さんが個性的に演じているのですけども、個性出しすぎじゃないかなあ
・ ヤクザの闇仕事を一手に担う場所を守る人が、足をひこずっているっていう設定、どう考えてもおかしい。 なんかあった時すぐ動けないとかありえない。 いくらなんでも危機管理できてなさすぎ
・ ムラジュンさんならふつうに出てきても雰囲気ばっちりだったと思うんですけどね
・ 岡田師範の原動力になっているのが、交番勤務時代にすきだった女子高生の弔い合戦なところもよくない。 創作物といわれたらそれまでだけど、原作にない改変ポイントであるにも関わらず倫理的にアウトなエピソード足してくるのおかしいやろ
・ 女子高生がアルバイトしているスーパーを巡回して、女子高生をガン見する岡田巡査。 「デートの約束したんだ~」と喜ぶ女子高生
・ 少女マンガ『PとJK』のノリをバイオレンス映画にぶちこんでくるの、情緒がおかしくなるからやめてくんろ
・ ヤクザに素性がバレたら命はない、という潜入捜査官ならではの恐怖を、先に潜入していた麻薬取締官のエピソードで紹介しておきながら、雇い主の阿内と人目に触れる場所でふつうに会っていたり整形で顔を変えてもいなかったり昔の勤務先を懐かしそうに眺めていたりと、緊張感ガバガバな描写が続々登場。 挙句、昔の名前で元同僚から呼ばれているところを偶然通りがかった下っ端ヤクザに目撃される始末。 どうしたいんだよ・・・
・ 突然の象牙推し
・ ドラッグとか臓器売買とか人身売買とかゼネコン贈賄とかじゃなく象牙。 いや、別に象牙が悪いわけじゃないけど、ホントにメインのシノギが象牙・・・?その方向性で行くの・・・?大丈夫そ・・?
・ アクションは見応えがあったものの、関東最大のヤクザ組織による血で血を洗う抗争という全体像が見えてこないままだったし、国家権力を脅かす機密書類もおざなりだったし、作品としての緊張感を維持するところまでは手が回ってなかった気がします。 あくまで岡田師範の格闘術と、ブロマンスがメインというのなら、そこはたしかに大成功だと思うし大満足です




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