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『ビバリウム』

2021年03月21日
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あらすじ・・・
理想の居住環境を手に入れたカップルが育児に四苦八苦します。

(※ 以下ネタバレしています)


人生の目標はその時その時で変わるもの。
たとえば小学生の頃なら、かけっこで一番になりたいことだったのが、中学校にあがる頃にはモテることになっていたり、高校に入る頃には恋人を作ること(そう、もちろんモテと実際の交際とは別の概念である)になっていたり、高校になじんだ頃には、数年後に進むべきはさらなる勉学なのか就職なのか、はたまた勉学は勉学でもどういう方向性の知識を身につけるべきなのか、などなど、自分の数歩先の人生に輝いているであろうゴールについて意識しはじめる。

そして、最終的に多くの人は、人生のゴールをこう設けようとするのではないだろうか。
衣食住に困らない生活。 と。

ちがうちがう、そうじゃない。 わたしのゴールはすきなことで生きていくことだ。 自分のゴールは世界一の金持ちになることだ。
そうかもしれない。 細かくいえば様々あるかもしれない。 
けれど、それらを根底で支えているのは衣食住に困らない生活なのだ。
大企業に入って高収入を得ようと、専門職について細々とやろうと、その日暮らしでなんとかしようと、とにかく人は食って寝なければ生きてゆけないのだ。 
その内容に違いはあるだろう。 高水準か低水準か、平均的水準か。 満足度はどうか。
しかし、とにかく人は食って寝ずにはいられない。
食って寝てさえいれば幸せなことすら少なくない生き物なのだ。

さて、ここにそんな「人」がたくさん生息する星がある。
多くは語られないが、とある「人」に似た生き物が、この星を新たな定住地として選んだ。
彼らは子どもを作ることができるが、大きくするのは苦手だった。 
時間も手間もかかりすぎるし、そもそも彼らがよそ者な以上、その価値観をあたえられた子どもたちだとこの星の社会に溶け込めない。
なんとか効率的な繁殖方法はないものか。 
そんなことを思いながら「人」を観察していたのだろうか、彼らはとてもいかしたアイディアを思いついた。
そうだ、「人」に育ててもらおう、と。
「人」の価値観はそれを一番理解している「人」に与えてもらえばいい。
うまれたての赤ちゃんはどうやって言語や生活習慣やモラルを身につけるのか? そばにいる人から学ぶのだ。
絶え間なく繰り返す模倣と反復作業と刷り込み、それらがまっさらな赤ちゃんをいっぱしの「人」に変えるんじゃないか。
それに、なんといっても「人」は養育のエキスパート。
母性本能なんて便利な機能はついてないけれど、目の前に小さな生き物がいれば反射的に「かわいい!」といい、自分をたよってくる仕草にほだされ、意思の疎通がうまくいかずイラつくことはあるけれど、なんだかんだで情がわいてしまう性質を持つ「人」は、なんやかんやで養育してしまうことが多い。
任せてしまえばいいのだ、彼らに。

彼らは養育を任せる代わりに、「人」がもっとも望むものを用意した。
人の最終目標である、衣食住に困らない生活である。
かくして、人生のゴールともいえる理想の住環境を無料で手に入れたカップルと、その提供の見返りとして当然ともいえる養育を期待した「彼ら」の、笑うに笑えないすれ違いドラマが幕をあけるのであった。


いやあ、おもしろかったですね!
きっとなにか反撃があるはず、と思いながら観ていたら最後までやられっぱなしで幕を閉じる物語なので、「結局なにが言いたいねん!」と怒るむきもあるかもしれませんが、要点は映画の冒頭の「カッコウの托卵」映像でかいつまんでありますから、ホントもう、そういうことなんですよ。 養育を任せちゃうんです。 この宇宙人は手抜きがすぎるな!
いやしかし、養育部分こそ手抜きですが、そこに至るまでの工程となるとまあまあ手がかかっていますし、いざ育った宇宙人がもれなく不動産屋になるのかそれとも他の職業にも派遣されているのかも気になるところ。
そもそもあのペースで現時点、人の社会にどれぐらいの割合で浸食できているのか。
あの不動産屋は全米に何軒存在しているのか。 
アパマンショップとどちらが多いのか。
採算はとれているのか。
不況で一軒家をもつ余裕のないカップルが増えていそうですが、今後戸建て以外の賃貸住宅サービスにも進出予定はあるのか。
あの販売員は独身なの?
結婚は? 恋人は? 調べてみました!

話を戻しましょうか、戻しますね。 
で、カッコウと違うのは、よその巣を乗っ取るのではなく、(いちおう)ちゃんとした巣を用意し食事も三食宅配、水道光熱費すべて発注元負担な上で養育のみ任せるところで。
これ、ニクイですよね。 
家を探していたカップルは元手一切不要なんですよ。 
しかも移住後の生活費もタダ。

普通、家を買うってゴールのようでゴールではなく、むしろスタートなわけで、一生かけてコツコツお金を返してゆかなければならない、「安定」という名の呪縛を背負うようなものじゃないですか。
それが、家もタダ生活用品もタダ食事もタダで税金も発生しないとか、考えようによっちゃあラッキーですよおふたりさん。
人は働かずに安定した生活を手にするという究極の望みを叶えられるし、宇宙人は一番やりたくない養育を丸投げ出来るし、これもう俗にいうウィンウィンじゃね?
と、宇宙人は考えたんでしょうね。 
なんだったらよかれと思ってる可能性すらある。
なんだろうこの宇宙人。 わかってるようでわかってない、ありがちな配偶者みが強すぎる。
そうじゃねえ。 いやたしかにそれもあるけどそうじゃねえ。 
用意された安定がすなわち幸せなんじゃねえ。
安定の内訳を自分で選択できることが幸せなんですよ。

この物語が繰り広げられる舞台となっているのは、いわゆる郊外型住宅。
平均的所得者たちが似通った敷地面積の似通ったおうちで似通った生活を送る、アメリカではおなじみのこの住宅地は、ネガティブな形やポジティブな形の両方で様々な物語に登場してきましたが、本作ではその「平均的」さが存分に悪用されており、描写といい含められた意味合いといい、舞台装置として実に冴えわたっていましたね。
「ビバリウム」は「生物本来の生息環境を再現した空間」という意味だそうですが、宇宙人が用意した郊外型住宅はまさに人のためのビバリウム。 
怒るなんて筋違い。 
だって人だって生き物に同じことやってんじゃん、という宇宙人の嘆きが聞こえてきそうですね。 という監督のしたり顔が見えてきそうですね。 この監督の嫌味がすごい2021!

シンプルな筋書きとシンプルな描写で、ものすごくイヤな人生の側面をみせてくれた本作。
人生はあっという間で、結婚は人生を縛る鎖で、子育ては話の通じない異星人との同居みたいなもので、消費しているようで消費されているのが世の常で、子育てを終えたころには人生の盛りも過ぎるし、余暇を楽しもうにも肉体の自由が利かなくなるし、遅かれ早かれ死ぬ。
すべて(ある意味)事実ですけど、あえて映画にするとこいらへんが性格悪すぎてシビレますね!
なんつうか、アリ・アスター監督と似たにおいを感じる。
どうか丸くなることなく、この道を突き詰めてほしい。
ロルカン・フィネガン監督、末永いおつきあいになりそうです!





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