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『キングスマン』

2015年09月15日
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あらすじ・・・
どこの国にも属さないどんな政治にも操られない超すご腕スパイ集団が、頭のおかしいIT長者をやっつけます。


■ 天国へようこそ

世の中のすべての人々がスーツとメガネの着用を義務付けられる時代がやってくればいいのに、と願い続けて20有余年。
白いワイシャツに色とりどりのネクタイ、首元からなだらかに伸びるショルダーライン、カフから適度にのぞくシャツの袖口。 
留められたボタンから伸びた皺が、中の人のボディラインをいやらしくない程度に、しかし雄弁に物語る。
スーツ・・ ああ、スーツ・・・!
フロントダーツによって作り出されるウエストと腕との間に出来た細長い三角形こそを、わたしは心からの崇拝を込めて紳士の絶対空域と呼びたい・・・!

マジで全世界のユニフォームが全部スーツになればいいのに! もちろん男性だけじゃなく女性も含めてですよ! 暑くたって動きにくくたっていいじゃない! みんなスーツを着ればいいじゃない! ベストも着込んでスリーピースにしちゃえばいいじゃない! 時にはジャケットを脱いで白シャツの袖をまくってもいいじゃない! ついでにメガネがあれば言うことないじゃない! いいじゃない! いいじゃないか! えっ?! 今すぐそうすればいいじゃないか! わしゃなにか間違っているかね?!! (※息も絶え絶え)

そんな(現実世界では叶うことのなかった)わたしの夢が、ついに叶えられました。
スクリーンの中で。
しかも、血みどろのアクションを伴って。
最高じゃないですか・・・  最高じゃないですか・・・!!

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(のっけからこんな感じなので、そりゃもう劇場は吐血騒ぎです)

わたしの夢を叶えてくれたのは、『キック・アス』や『X-MEN: ファースト・ジェネレーション 』で「暴走する懲罰感情」と「若者たちの成長」を掛け算し、極上のエンターテインメントに仕上げてくれたマシュー・ヴォーン監督。
そして、理想のスーツ像を魅せてくれたのは、たとえようもないほど麗しい顔立ちと、それに相反する絶妙なおっさんくささ、そしてその上にふりかけられた上品エキスで世の女性たちを英国紳士沼に叩き落した、ミスター・ダーシーことコリン・ファースさんであります。

コリン・ファースさんが本作で演じているのは、世界を股にかけた紳士スパイ。
潤沢な資金と優れた才能を「世界平和」のためのみに役立てる超エリート集団「キングスマン」のナンバー1スパイ、ハリー・ハート氏が、17年前にとある中東の地で部下を死なせてしまったところから物語はスタート。
ハリー氏は部下の遺族(妻と息子)の元を訪ね、裏に「キングスマン」の直通電話が刻まれたメダルを手渡し、何かあったら連絡するように伝えます。
時は流れて現在。 
自分を守るため命を捧げてくれた部下の恩に報いるべく、全身全霊で世界中の大事件を阻止してきたハリー氏は、「キングスマン」の人員補充にあたり、部下の息子であるエグジーをスカウトすることに。
それは部下への恩返しでもあり、父親を亡くしたあと貧乏生活を余儀なくされてきたエグジーを救い上げたいという厚情でもあり、エグジーの生まれ持っての正義感や高い身体能力へのMOTTAINAI精神の表れでもあったのかもしれません。
そして、一方のエグジーもまた、紳士な立ち振る舞いと特殊諜報員の鑑のような超絶アクションを同時に魅せつけるハリー氏に、父親に対するそれに似た感情を抱くように。

このね、エグジーの人となりを表すエピソードがまたね、ものすごくクドくなくスマートなんですよね。
アホを相手に拳をふるわない。 ただ、仕返しはキッチリお見舞いする。 動物の命を大切にする。 お上(警察)はもれなくコケにする。 家族をとことん守る。 

彼は、才能にあふれているけれど、それをどう使えばいいのか、果たして使えるものなのかどうかすらわかっていない。 いや、確かめる勇気がないと言う方が正しいのかもしれません。
そんなエグジーの葛藤は決して珍しいものではなく(才能に恵まれているという点では特別なのかもしれませんが)、多くの若者や若者以上老人未満の人たちにもメチャクチャ思い当たるものなのではないかと思うのですよ。
だって、自分の人生の方向性を自分自身で見定めるのは、とても勇気が必要なことだから。

一歩踏み出せば、次の瞬間転ぶかもしれない。
自分の才能が、世の中で通用するかどうかわからない。
確かめるのがこわい。 だから、経済状態や身体状態、家庭環境などなど色々な理由を心の中に挙げて、「確かめられない」ことにする。 
「確かめない」んじゃない、「確かめられない」んだ、と。

もちろん、それもまた真実なのですよ。
だって、現実問題おぜぜがなければ高度な教育を受けることは困難だし、ならばと奨学金を借りれば、そのあと長い間返済に苦しむことになりますし。
運動面や芸術面を伸ばすための習い事に通おうと思ったら思ったで、高額な授業料を用意しなければならない。
「人生の可能性は、貧富の関係なく誰の前にも無限に広がっている」だなんて、とてもじゃないけれど言い切れないという現状。
納得しているわけではないけれど、納得して生きてゆくしかないじゃないですか。 夢だけじゃ食べていけないじゃないですか。 好きなことだけじゃ、生きていけないじゃないですか。

本作に登場するエグジーだって、ハリー・ハート氏にスカウトされなければ低所得者層から抜け出せなかったはずです。
もっと言えば、そもそも「キングスマン」という組織だって、豊富な資金があったからこそ、これまで何人ものエージェントを育ててゆくことができたはず。
完全オーダーメイドの高級スーツだって、でっかいお屋敷だって、こじゃれた秘密道具だって、先から毒ナイフが飛び出すオックスフォードシューズだって、お金がなければ買えないんですよ! もしも「キングスマン」が貧乏な組織だったら、みんな自前のジャージとかでママチャリ移動で武器も濡れタオルとかまるめた新聞紙なんですよ! 
くそう・・・世の中ゼニや・・・ しょせんゼニが全てを左右するんや・・・!

・・と、ひねくれてもいいのですが、本作はこれでいいのだと思います。
現実がままならないからこそ、映画の中で若者がマイ・フェア・レディされる姿に癒されたい。
どんどん才能を開花させ、有能なエージェントへと成長する過程に胸躍らせたいのですよ。
教官がスーツ姿の英国紳士だったら言うことない。
そう、だからわしはもう、言うことはない。

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(カフスを弄る英国紳士)

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(しばきたおす用の傘を持つ英国紳士)

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(お酒もたしなむ英国紳士)

天 国 か よ ! !


あとね、本作の英国紳士はコリン・ファースさんだけではないんですよね。
おじいちゃんと呼ぶにはある一定の時期から歳を取っている感がなさすぎる、英国紳士沼の重鎮マイケル・ケインさんや、なんとあのマークさんも登場!

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そうそう・・・あのマーク・・ ・・・っておまえマークじゃないな! むしろルークだろ!

マーク
こちらですよ! こちらのマーク・ストロングさん!
もうね、さんざんスーツスーツ言ってきましたけどね、ぼかぁシャツ&ネクタイにミリタリーセーターというこの組み合わせがね!昔っから大好物なんですよね!
Vネックからのぞくネクタイと肩の当て布という、フォーマルとカジュアルのコントラスト・・・ たまらんですよ!おまけにメガネでやんの!メガネかけてるんでやんの! すき! けっこんしてくれ!!  

わたしは今度生まれ変わったら傘かセーターになりたい。
書類をとめるバインダーでもいいですよ。

現実のモヤモヤを晴らすようなスクスク成長談と、目にも眩しいスーツとメガネ天国、そして充分すぎる毒っ気が超最高な『キングスマン』。
わたしはこの作品を猛烈に愛します!
ありがとう、マシュー・ヴォーン監督!
ありがとう、英国紳士連盟!



(※ 以下超重大なネタバレがありますので、必ず本編鑑賞後にご覧くださいませ)





■ 天国から地獄へ

それは突然やってきました。
エージェントとしての最終テストをパスできなかったエグジーを前に、失望を隠せないハリー氏。
教え子であり息子のような存在のエグジーに、キングスマンとして欠かせない要素である「覚悟」を、どうすれば伝えることができるのか・・・。
ハリー氏はとある任務を終えた後、エグジーに与えるつもりでいました。
そして、任務が終わった時、たしかにエグジーは「覚悟」を得ていました。
無残に殺されたハリー氏の亡骸を前に。

無残に! 殺された!


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(このほのぼのとした雰囲気からは考えられないような凄惨なアクションシーンがあります)

殺されるのはしょうがないんですよ。 師匠と言うのは弟子を成長させるためにすべてを捧げるものですし。 時には命だって。 オビ=ワンだってそうでしたし。
ただ、本作のハリー・ハート氏の死に様はね、ホントにない。
わたしの中では完全に、ない。

予告編でも使われていた、コリン・ファースさんの超絶アクションシーン。
まさかそれがこんなかなしいアクションだったなんて、わたしは想像もしませんでした。

ハリー・ハート氏の最後の任務となった、アメリカの田舎町にある教会への潜入調査。
そこでは、頭のおかしいIT長者によるなんらかの実験が行われようとしていました。 その「なんらか」を突き止めるのがハリー氏の役割だった・・・だったのに。
「なんらか」とは、IT長者が全世界に無料で配布したSIMカードから発せられる信号。
人の正気を奪い、おそろしく凶暴にさせてしまう信号。
人口増加による環境破壊を憂いていたIT長者は、その信号で人間同士を殺し合わせ、地球上の人口を一気に減らす計画を立てていたのです。

ハリー氏自身はSIMカードを持っていなかったものの、閉ざされた教会内で一斉に発せられた信号に抗うことなどできようはずもありません。
荒れ狂う人々を相手に、ひたすら殺戮を続けるハリー氏。
時に獣のように。 時に華麗に。
血まみれになりながらも確実に死体の山を築いてゆくハリー氏の目は鈍く翳り、そこに理性のきらめきはありませんでした。

教会内にいた人々は、差別主義の狂信者だった。 ならば殺されてもしょうがない? しょうがないかもしれません。(映画の中でなら)  
けれど、わたしはハリー氏にあくまで彼の意志で闘ってほしかったのですよね。 
悪党に操られるのではなく、彼自身の意志で、ゲスな差別主義者たちをやっつけてほしかったのですよ。
全ての人々を殺し終わった時、ハリー氏が浮かべた表情の、なんと虚ろで、なんとつらそうだったことか・・・。
あんなすごい見せ場を、あんなかなしい見せ場にするなんて・・・ 憎い・・・ わしゃマシュー・ヴォーン監督が心底憎いぞ・・・!

冒頭のパブでのアクションシーンみたいな爽快なしばき方なら、心からの拍手喝采だったのですけどね・・。
弟子の成長のために退場させるつったって、もうちょっとかっこいい方法があったんじゃねえの?! え?! そうじゃねえの?!マシューさんよぉ?!

というわけで、天国から一転地獄のような気分を味わってしまったわたしなのでした。
ショックすぎて映画館出ようかと思いましたからね。出ませんでしたけどね。
その後エグジーがハリー氏が仕立てておいてくれたスーツを着て、立派にエージェントデビューを果たしていました(※女までコマす急成長っぷり)が、やっぱりね、なんつうか、渋みが圧倒的に足りないですよね。 もっとくれよ・・・50代英国紳士のエキスをくれよ・・・!

あと、基本キングスマンは単独行動が過ぎると思うよ!
雪山でのランスロット登場シーンといい、ハリー氏の教会シーンといい、あれ別のキングスマンによる援護があれば避けられた犠牲なんじゃないの!
もしかしたら17年前に複数で任務にあたっていた時失敗したから、余計な犠牲を出さないように単独になったのかもしれないけど、チームワークを謳っていながら危険な任務は個別って、おかしいと思うなぁ! っていうか鑑賞後数日経ったにもかかわらずハリー氏退場のショックを未だ受け入れ切れていないわたしがいます! 仮に続編が作られたとして、どっこい生きてたパターンも全然オッケーですよ!わたしはね!


■ おまけ

・ だいすきだけど心底憎たらしい映画でした。 マークさんの存在があったおかげで、最後まで踏み堪えることができたぞい・・・ありがとうマークさん・・・ ありがとう50代英国紳士・・・

・ とはいえ、コリン・ファースさん退場後の展開もすごくすきだったんですけどね。 花火シーンの趣味の悪さ最高!

・ 悪党の方針がまたもや「地球の人口を減らす」だったヨ!

・ 頭のおかしいIT長者さんは一部の富裕層だけが生き残って、残りの一般人のほとんどが死滅した世界を目指していたみたいなんですけど、その世界、誰が消費を生み出すんスかね? 手を汚さない金持ちが大勢いたって社会は回らないんじゃないんスかね?

・ そんな発想のヘンテコリンなIT長者を演じていたのは使えないアイパッチ長官ことサミュエル兄貴。 人殺しだいすきなクセに血を見るのはだいきらい、という、得体のしれない無邪気さを存分にふりまいていました。 なんかアレだ、今回もたのしそうでなによりですな。

・ サミュエル兄貴の使える部下ガゼルを演じていたソフィア・ブテラさんも超かっこよかったですよ。 身体能力スゲー!と思ったら、世界的なダンサーの方なんだそうです。 クルクル回ってたもんなぁ。

・ メガネもキングスマンの一部なのに、どうしてランスロットは裸眼だったの! それは駄目なんじゃないの! ちゃんとしましょうよちゃんと!

・ いい味出していたルーク・スカイウォーカー氏ことマーク・ハミルさんの存在からもわかるように、すごいスターウォーズしてました! ハリー氏はマスター、エグジーはパダワン、マイケル・ケインさんは・・・えっと・・・パルパティーン・・?

・ エグジーとマーリンが突入する雪山の基地にワラワラわいて出る傭兵なんかも、パッと見ストーム・トルーパーみたいでしたもんね。 着ている服は惑星ホスにいた時の反乱同盟軍みたいな恰好でしたけどね。 じゃあマーリンはハンソロ的なアレってことにしちゃおっか!ね、いいよね!

・ しかし、クライマックスの大量虐殺シーンはホントにすごかったですね。 スティーヴン・キングの『セル』が映画化されているようですが、一足先にあの冒頭の地獄絵図を具現化してしまった感あるで! そういえば、『セル』の方にもサミュエル兄貴出るんだよな・・・兄貴・・働き者だなぁ・・・

・ ハリー氏の退場にはまだ納得できていないものの(←しつこいタイプ)、エグジー率いる「よりぬきキングスマン」による圧倒的窮地からの形勢逆転劇はかなり痛快でおもしろかったですよ。 聞いたところによると、既にマシュー監督が続編の脚本に着手されているそうですが、なんだかんだ言いながらそちらもそちらで待ち遠しくなっているわたしがいます。 もちろん、どっこい生きてたパターンも挫けずお待ち致しておりますよ!監督! (←相当しつこいタイプ)   







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