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『メッセージ』

2017年05月22日
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あらすじ・・・
ある日とつぜん、“それ”は現れた。
地球上の12の都市、その上空に佇む“それ”。
どこからやってきたのか、なんのためにやってきたのか、どのようにしてやってきたのか、なにひとつわからない。理解できない。
希望と怖れと焦りから、世界中が混乱を極める中、一人の言語学者に白羽の矢が立てられる。
“それ”の目的は、世界の破滅なのか、それとも救済なのか・・・。




(※ 以下ネタバレしていますので、鑑賞前には読まないでいただけるとありがたいです。 ほんとうにすばらしい作品なので。)




・ 冒頭、カメラは暗い天井から静かな湖を抱く大きなピクチャーウィンドウへと視点を移し、「あなたの物語は、この日はじまったと思っていた」というセリフが流れます。 その後映し出されるのは、生まれて間もない赤ちゃんのちいさな手をそっと握り、いとおしそうに見つめる母の姿。 

・ 赤ちゃんはあどけない幼児になり、幼児は屈託なく笑う女の子になり、女の子は思春期らしさを身につけたとがった眼差しの少女になり、そして少女は、髪がごっそりと抜け落ちた痛ましい姿でベッドに横たわる若い女性になり、彼女のそばには「もどってきて」と滂沱の涙を流す母の姿。 もうダメでした。 わたしにはこれだけで、もう、つらすぎてダメでした。

・ わたしとわたしの娘の事情をここにこまごまと書く必要はありません。 ありませんが、書ききれないほどのことが今までにあったことは事実で、冒頭のシーンは非常にリアルな痛みとしてわたしの心を締め付けましたし、自分と娘との十数年がフラッシュバックして、嗚咽が漏れるほど泣いてしまいました。 幸いなことに娘は命をうしなわず今まで生きてこられました。 でも、そうではなかったかもしれないのです。 わたしよりもずっと早く、旅立ってしまっていたかもしれないのです。 

・ 物語は、この「母」とおぼしき女性が政府の命を受け、数学者の男性と共に未知なる生命体とのコンタクトを任されるという、ありそでなさそな展開へと歩を進めていきます。 まだ哀しみから癒えていないのか、生命体の繰る表意文字を分析していても、ふとした瞬間娘の声や気配を感じてしまう女性。 蛸のような生命体の姿は、娘が作っていた粘土細工を思い起こさせ、書類をめくる音は娘に読み聞かせた絵本の記憶をよみがえらせる。 いつでもどこでも、女性の中には娘との愛情に満ちた数十年があり、その美しい日々が突然奪われた哀しみがあるのです。 もちろんそうでしょう。 時間は慈悲深く、同時に残酷なものだから。

・ しかし謎の生命体とのコンタクトが重ねられるとともに、徐々にこの女性の現実と幻の境はあいまいになってゆきます。 いや、あいまいであることが明らかにされてゆきます。 わたしが女性の記憶だと思っていたものは、女性にとって「どうして何度も何度も見てしまうのかわからない夢」であり、現実をさえぎるように飛び込んでくる強烈かつ身に覚えのないイメージであった。 「この子はだれ・・?」 女性が口にした瞬間、わたしはこの作品に仕掛けられた驚きの事実に気づき、はっと息をのみました。

・ 本作はSFで、哲学的で、スーパー頭のいい言語学者が人類と宇宙人を救う話です。 ちょっとやそっとの頭の良さじゃないですよ。 だって、言語学者がいるのはアメリカだけじゃないはずなのに、アメリカ以外の国はちっとも研究が前進しない感じですからね。 

・ 宇宙船があらわれた世界12か国で、それぞれの映え抜き言語学者やなんかすごい博士とかが解読に躍起になる。 そりゃもう総力戦ですよ。 すげえ寝ずに解析してたはずなんですよ。 それなのに全然宇宙人との会話が進まない。 挙句、ひとつの国が「もうええ!まどろっこしいことなんてやってられへん!戦争や!撃ち落としたったらええんや!!」ってなった途端、あっという間に右にならえなんですよ。 お粗末すぎて話になんないですよ。

・ アメリカにスーパー頭がいい言語学者がいたおかげで、無事生命体の言語も習得し、なんだったらそれが意味する宇宙の真理みたいなものにも気づき、最終的には時間という概念にとらわれず、現在過去未来から必要な時に必要な情報をピックアップしてしまう能力をゲットし、見事宇宙戦争を回避させてくれてよかった。 地球上にひとりだけでもスーパー頭がいい人がいてよかった。 マジであぶないとこだった。

・ 正直いうとわたしは、「3000年後に自分たち(宇宙人)を襲う危機を地球人に救ってもらうには、今現在紛争だ金融だ資源の奪い合いだでくだらない争いを繰り返す地球人をひとつにまとておく必要があるので、あえて12の都市に分散して現れ、変な意地を捨て一致団結しないと解けないような謎をばらまき、代表としてスーパー頭のいい誰かに理解させる」という宇宙人のウルトラ先読み大作戦が納得できるようでできなくてですね。

・ 時間を超越している宇宙人的には、将来絶対に理解する人が出てくることがわかっているからこそ実行したのでしょうけど、万が一理解されずに中国のリーダーが好戦的なままだったら地球終わってたんじゃね?なんてことをついつい考えてしまったんですよね。 もうちょっと簡潔なやつなかったの? 「武器を使え」とか言われたら、そりゃ「はあ?」ってなるじゃん! 「武器?ははーん、ひょっとして未来を読む力のことですか?」ってなかなかならないと思うよ!

・ なので、SF的な部分はいいです。 原作も読んでいないので、細かいところは理解できていないと思いますし。 ただ、「宇宙人」という存在を使って描きたかったのは、未知の言語・種族・考え方を理解しようとする主人公の姿だったのだろうと思った。 わからないものを力でねじ伏せようというのではなく、言葉で、共感で寄り添おうということは、人間だけに与えられた能力そのものなのではないか。 かなしいかな、近年すっかり失くしてしまいつつある能力だけれど、本来わたしたちはそれを持っているはずだ、と。 そう理解しました。

・ それよりもわたしが圧倒的に打ちのめされたのは、先にも書いた「愛するものをうしなう」ということ。 想像したくもないその悲劇がいつか間違いなく訪れるのだと、もしもあらかじめわかっていたら、ということなんですよね。

・ 冒頭のシーンは、主人公が見た未来の自分。 生命体との遭遇と理解によって得た力は世界を救うと同時に、彼女の瞳にこれから経験するであろう悲劇的な現実を突きつけてしまう。 人生で最も大切な存在の誕生。 そして早すぎる別れ。 つらいなら、選ばなくてもいい。 素晴らしい日々と耐えがたい程の苦痛が一緒に訪れるとわかっていながら、あえてそれを選ぶ必要はない。 さあ、どうする? あなたなら、どうする?

・ いつか離れ離れになる日がくるとわかっているなら、一緒の時を過ごさない方がいいのか? 自分よりも先に旅立ってしまうぐらいなら、いっそ出会わない方がいいのか? 喜びの代償として哀しみに耐えなければならないのなら、なんの喜びもない人生を送る方がマシなのか? わからない。 わたしにはわかりません。 だって、現実の世界では将来のことなど知りようはないから。 

・ ただ、もしも主人公のように、未来を知ってしまったとしたら。 心の底から愛する人が、自分よりも大切な存在が先立ってゆくのを見守るしかないとわかってしまったら。 それでもわたしは、愛することをやめられはしないだろうと思うのです。 何が起きてどんな別れがまっていようと、いつだって今この時を生きるしかない。 今目の前にいる人に愛をそそぐしかない。

・ 主人公もまた、先で待っている苦しみを知りつつ、パートナーとなる男性の愛を受け入れ、子どもをもうけることを決意します。 うしなう哀しみよりも、愛する喜びを選んだのだろう、と思いました。 それがどれだけつらい選択だったか、けれど、どれだけ尊い決断だったか。 主人公の凛とした眼差しに涙がとまりませんでした。 

・ 主人公を演じたエイミー・アダムスさんがほんとうにすばらしく、ありえない設定の役にこれほどの説得力を与えるとは・・・と唸らされました。 すべての仕草、言葉、目線が力をもっている。 「あなたの物語」を「わたしたちの物語」に感じさせてしまう。 彼女を支える数学者役のジェレミー・レナーさんも知的で包容力があってすてきでした。 だからこそ余計に、彼らが回避できない苦しみを思うとつらくてしかたありませんでした。 いつか彼女の元に戻って欲しいと思うけれど、それは難しい未来なのだろうか。

・ 暖かい色と静かな色を使い分けた映像も見事でした。 宇宙船の造形がお菓子のばかうけに似ていると話題でしたが、なんつうか、本作の静かな哀しみと「ばかうけ」という字面があまりにかけ離れていて、わたしにはいまいちピンときませんでした。 角のないモノリスですよね、あれね。

・ 未来が見える能力は現実にないのでアレですが、情報というものはほんとうに厄介で、一度知ってしまうと無視するのは非常に困難なものでして。 真偽のほどはさておかれ、耳に入った瞬間からその人を支配してしまう。 本作で爆薬を仕掛けた兵士もそうでしたが、「そうかもしれない」は予防接種にもなりうるし、猛毒にもなりうるのだなぁ、とあらためて感じました。 






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