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「ロスト・ケア」 いま、この世界で生きるわたしたちへ。 (読感)

2013年02月16日
ロスト

あらすじ・・・
〈彼〉は満足そうな笑みを浮かべ、証言台(そこ)に立っていた。
43人もの人間の命を奪った事に、後悔はなかった。
これから自分にくだされるであろう判決に、恐怖はなかった。
いや、全くないと言えば嘘になるかもしれない。 しかし、それらもすべて、〈彼〉は覚悟の上のだったのだ。
〈彼〉は静かに思いを馳せた。
自分の放った「矢」が、自分が消えたあとの世界にどんな穴を穿つかを・・・。



第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作『ロスト・ケア』を読み終えた瞬間、わたしは大きく息を吐き出しました。
胸の中にたまった「気持ち」を、すべて吐き出してしまいたかった。
しかし、肩を上下させ、なんど吐き出そうと努めても、その「気持ち」はわたしから離れて行こうとはしませんでした。
そして気づくと、吐き出しきれなかった「気持ち」は涙となって、わたしの中から溢れ始めていました。

殺人者に対する憤りでもなく、偽善者に対する困惑でもなく、家族愛に対する単純な感動でもなく、未来に対する絶望でもない、説明のつかない複雑な「気持ち」。
それは、70代の親を持ち10代の子どもを持つ、40代のわたしの中に深く広がる不安だったのか。
それとも脳裏に、あの日病院のベッドの上で痩せ細ってしまった身体を横たえていた、家族の姿がよみがえったからなのでしょうか。


『ロスト・ケア』が主に取り上げているのは「少子高齢化」、そして「介護問題」です。
どちらも、今すぐそこにある不安だけれど、今すぐ向き合おうという気にはなれない問題。
待ったなしのはずなのに、もうちょっと、もうちょっとと先延ばしにしてしまっている問題。
『ロスト・ケア』の登場人物たちは、その問題に直面し、あるものは救われ、あるものは困窮し、あるものは絶望の果てにひとつの決意を固める。
そして物語のうねりは、もっと大きなテーマへと流れをかえてゆきます。
「わたしたちは、この世界で、どう生きてゆくのか」と。


「介護は家のもの(主に嫁)がして当たり前」だった時代から、わずかながらも時は流れ、「第三者のサポートを受けれるだけ受け、なるべく負担を減らすようにしましょう」へと変わってきていることは確かです。
少なくとも、そう叫ばれるようにはなってきている。
しかし、いざ「第三者」のサポートを受けようとしても、そこには介護保険制度やさまざまな壁が立ちふさがり、実際に介護を必要としている人が受けられるサポートは、決して充分ではありません。(※一部のお金持ちを除いて)
では、すべての介護する人、される人たちが穏やかに暮らせるだけのお金を、社会保障にまわせばいいのか。その財源はどこから確保してくるのか。
結局、お金のない弱者は「愛」で自分を慰めつつ、綺麗事だけでは済ませられない現実を受け入れるしかなく、その最も哀しい結末が「介護殺人」として日々ニュース記事となり、わたしたちの目に飛び込んできます。
もちろん、そんな結末だけがすべてではありません。
でも、悲劇は確実に存在している。

介護に疲れはて、明日の生活に絶望し、「もうおわらせてくれ」と懇願され、苦しみ抜いた結果家族を手にかけてしまった人は、果たして殺人者なのか。
その背中を押させた「モノ」こそが、日々大量にニュース記事を生み出させている「モノ」こそが、殺人者なのではないのか。
なんとかしなければならないことはわかっている。
けれど、どうすればいいのかわからない。


「何が正しいのか」を示す事が極めて困難な問題に誠実に向き合い、ひとつの結論へと辿り着くラスト。
それは決して、希望に満ち溢れた未来ではないかもしれないけれど、そこで生きていこうとする人たちの強い意志がある。
本を閉じ、大きく息を吐き出したわたしに、登場人物からの眼差しが向けられている気がしました。

『ロスト・ケア』が放った「矢」は、わたしの心にもたしかな穴を穿ちました。

そしてきっと、これから読むであろうあなたの心にも。


作者の葉真中顕さんは、本作が本格長編小説処女作だそうですが、日本の社会保障制度が抱える問題はわかりやすく説明され、読んでいるだけで心が痛くなるような介護の現状も、「泣き」を煽るような語り口ではなく、極めて冷静に描写されておりますので、重々しい内容ながらもあっという間に読んでしまいました。
さすがは、超人気ブログ「俺の邪悪なメモ」の筆者・罪山罰太郎さんとして、様々な社会問題や将棋、スポーツの話題などを極上のコラムに仕上げてきたお方、別名「TENGAの伝道師」さんですね! TENGAってアレですよ、卵型とか色々とシャレオツな形状をしたアレ。 おっと!これ以上は勘弁な!

また、作中で描かれる「殺人」に対して私たちが抱きうる、「共鳴」「反感」「批判」「同情」「罪悪感」などは、全て登場人物たちによって代弁されてゆき、作者がいかに自問自答し、苦悩の末にこの物語を完成させたことか・・・と、そこに込められた想いに圧倒されました。
葉真中さんの筆から今後紡ぎ出されるであろう新たな物語も、非常に待ち遠しく、とても楽しみです!

言うまでもない事ですが、ミステリーとしても非常に巧みで、序章からさりげなく忍ばせられていた仕掛けにまんまと踊らされ、後半、ある重要な一行を読んだ瞬間には思わず「えーっ?!!」という感嘆の声をもらしてしまった程。
2度、3度と読み返したくなる事請け合いですよ。


小説好きな方も、そうでない方も、邪悪メモの愛読者だった方も、今日たまたま初めてこのブログをご覧下さっている方も、ぜひ!



関連サイト 葉真中顕さんのブログ
(はまなか✩あき さんと読みます。)(漢字だけ見たらどこで切るのか一瞬迷いませんか・・・そうでもないですか・・・わたしは迷いました)(顕微鏡の顕と書いてアキ!)(よし、おぼえた!)


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『ムカデ人間2』

2013年02月13日
ムカデ
(これだけ釘を刺されても尚観ようだなんて、あなたよっぽどですよね!)(※と言われているような気持ちになれます)(※レジで)


(※ 以下盛大にネタバレしています)


あらすじ・・・
【ムカデ人間2】あらため【第2回雑仕上げ王選手権】まとめ

雑ポイント・その1「暮らしぶりが雑」・・・主人公の青年がベッドの上で寝便!
もよおしたら、迷わずおべんじょへ! そりゃおかあさんもがっかりするわ!

雑ポイント・その2「計画が雑」・・・だいすきな『ムカデ人間』を再現したい!よし、どうせだから12人つなげよう!
雑! 多けりゃいいっていう考え方がとても雑!

雑ポイント・その3「チョイスが雑」・・・勤め先の駐車場内で手当たりしだいさくさく捕獲!男も女も妊婦さんもなんでもアリ!
あとあとつながないといけないってこと、少しは考えてますか・・・妊婦さんが産気づくと結構大変なんやで・・・

雑ポイント・その4「さらい方が雑」・・・銃で足を撃つ事で行動を制限させたら、いっきにバールのようなもので頭部を殴打!噴き出す血!消えゆく意識!
そのまま命まで消えゆく可能性大!

雑ポイント・その5「お片づけが雑」・・・気絶したムカデ候補生を自家用車に積み込んで作業終了!
駐車場に残したまんまの血痕とか被害者の車とか、そういう関連のやつはもう気にしない!

雑ポイント・その6「作業場の契約方法が雑」・・・大勢の人を連れ込んで外科的な処置を行なってもご近所さんに通報されない場所、ということで小汚い倉庫を契約。ていうか家主さんを殺すことで(脳内で)契約完了。
割とすぐ捜索願いとか出される感じの人じゃないですか。「あれ?家主さんどこいった?」「あーそういえば賃借人と倉庫の下見に行くっていってたよ」「なに!」みたいな。あと、家主さんの車置きっぱなしなのも雑ポイント高し。

雑ポイント・その7「繋ぎ方が雑」・・・覚えるほど観た『ムカデ人間』のハイター博士の施術を見よう見まねで再現してみるも、外科的なさじ加減が全くわからずムカデ候補生は死亡。しょうがないので残りの候補生の口とおしりをホッチキスでくっつけて、あとはもうビニールテープでぐるぐる巻きだ!とにかく固定さえしとけばなんとかなるさ!
ビニールテープってさぁ・・・水分つくと剥がれるよね・・・うん・・・・固定・・ホントにできますか・・?

雑ポイント・その8「術後のフォロ-が雑」・・・麻酔薬の代わりにバールのようなもので一撃とか、膝にカッターナイフで切り込みを入れてそこから神経みたいなの引っ張り出してハサミでぶったぎるとか、かなり大胆な外傷を与えてきたのに、抗生物質の類は一切なし。 食事はドックフード的な缶詰。 それが拒否されるっていうんなら、ホースのついた漏斗を口からグイグイ押し込んでスープでも流し込んどけ!
ハイター博士と違って、医術のイロハも知らない素人さんな訳ですから。ある程度の雑仕上げは覚悟しておりましたが。 もはや雑の範疇を越えたよね。ただのヤケクソだよね。排便プレイにご執心なだけにね。クソだよね。

雑ポイント・その9「後始末が雑」・・・行き当たりばったりにも程があるムカデ人間プロジェクトは、予想通りわずか1日足らずで頓挫。 雑につっくけた繋ぎ目もちぎれ、逃げ場を探してさ迷い始めるムカデ人間たち。 どうする、マーティンくん!元気そうな人だけ残して、もっかいつないでみるか?!
思い通りにならないパーツなんて、自分をがっかりさせるだけのパーツなんて、もういらない! とばかりに全員殺処分。 おまえはホントさいごまで雑な男だな!

雑ポイント・その10「夢の叶え方が雑」・・・クソみたいな毎日を忘れさせてくれた名作『ムカデ人間』。 知性、男前な容姿、決断力、実行力の全てを兼ね備えた、人生の師とも言えるハイター博士。 自分も、彼のように人々を支配したい。 そして、でっかいムカデ人間を作りたい。 それはしょせん、儚い夢なのか・・・。 いや、夢ではない。 夢を夢で終わらせはしない。 なぜなら、夢は、心の底からねがえば、必ず叶うのだから・・・!
・・・って思ってたらホントに夢だった! おい!シックス!あとで職員室こい!

【結論・今回の雑仕上げ王 トム・シックス監督】


はい、というわけで世紀の不謹慎映画『ムカデ人間』の続編、『ムカデ人間2』を観ましたよ。
血糊も排泄物も前作を遥かに上回る量となっており、シックスさんのあまりの熱意に、心の奥底にあるはずの「正気」が焼き尽くされ灰になるような、そんな魂の1本となっておりました。 まぁもちろん、良識ある人は絶対観ちゃダメなタイプのアレですけどね!

今回の見所はなんといっても主人公マーティンさんを演じるローレンス・R・ハーヴィーさん。
画面に登場した瞬間、「woo...」と重々しいため息を漏らさずにはいられない濃密フェイス。
くまのプーさんを思わせるような、丸みを帯びたボディ。
かろうじて臀部にひっかかっているだけのパンツと、そこから顔をのぞかせた割れ目で観る者を(いろんな意味で)ノックアウト。

マーチンくん_convert_20130212230725 プーさん_convert_20130212230758
(うまれてはじめて、「ああ・・プーさんってホントに居たらちょっと引くかも・・・」と思いました。)


夢を叶えようとがんばったけど、現実は意外ときびしくて、マーティンくんの計画は脆くも崩れ去ってしまった・・・ ・・と思ったらまさかの夢オチでした。 ビックリしたなあ、もう!
しかし、全てが夢だったのだ、と思えば、全編通して感じられた不自然さもしっくり来る。というか収まる場所にパチっと収まるのが憎いトコロ。

あまりに無鉄砲な捕獲大作戦。
ターゲットになりそうな人間は次から次へとやってくるものの、彼らを探そうとする人間(警察や管理会社を含め)が一切現れない駐車場。
床に飛び散った血飛沫も、車の中に残した幼い子どもも完全放置だけれど、誰にも見つからないし、誰にも咎められない。なぜなら、そこは夢の中だから。

この「夢の中」には、マーティンくんが現実世界で目にし、さまざまな感情を掻き立てられてきたであろう人々が次々と登場するのですが、そこには「ただ無残に命を奪われる人」と「ムカデ人間のパーツとしてハントされる人」という線引きがありまして。
無計画に見えたムカデ大作戦ですが、闇雲につなげようとしていた訳ではなかったように感じたのですよね。
では、彼らを分けていた違いとは一体何だったのか。
アガサは、「パーツにされた人々のキャラクターはそのままマーティンくんの心の中を象徴していた」のではないかと思いました。
男の性欲を満たしてくれる便利な女は、マーティンくんが欲しているもの。 
暴力的なマッチョ男は、マーティンくんがなりたくてなれないもの。
カップルは、マーティンくんの妬みの対象。
お高くとまったモデル体型の女性は、マーティンくんを嘲笑う(とマーティンくんが思い込んでいる)憎しみの対象。
『ムカデ人間』出演女優は、マーティンくんの憧れ。
お腹に赤ちゃんを宿す母親は、マーティンくんが実母へ抱く「こんな風ならいいのに」という希望と「どうせこんなもんなんだろ」という軽蔑。
色々な感情は入り混じっていますが、根底にあるのは「ほしい」「こうなりたい」という欲求だったのではないでしょうか。
ムカデ人間は、文字通りマーティンくんの「夢」だったのです。


物語終盤、妊婦さんに関して、とても酷くて、正視に耐えないようなシーンがありました。
アガサは、子どもや赤ちゃんが殺される姿をそのまま描く、という事が、たとえ映画という作り物の世界であってもどうしても受け入れられない性格なので、このシーンは本当にショックで、「こんな展開があるって知ってたら観なかったのに・・」とさえ思ってしまいました。
しかし、直接描写は依然受け入れられないものの、そのシーンが伝えようとしているものは、「すべてが夢」とわかった瞬間受け入れられたような気がしたのです。
「車に閉じこもって手出しができない母親」は「自分を拒絶する母親」。
「産まれ出た事を祝福されなかった赤ちゃん」は「愛情を注がれなかった自分」。
「無残に踏みつけられた赤ちゃん」は「実の父親からの性的虐待を母親に見てみぬふりされ、あまつさえ刺し殺されそうになった自分」。
死んでしまった赤ちゃんは、誰にも救ってもらえず心を殺されたままで生きてきたマーティンくんの絶望、そのものだったのではないでしょうか。
そう考えると、あれは残酷であればあるほどマーティンくんの痛ましさを引き立てる、という非常に秀逸な表現方法だったのかもしれません。
ま、だからといって、やはりそれを「直接描く」という必要は感じられませんでしたけどね。そこはね、間接表現でも充分伝わると思うんだ。ぼくはね。

マーティンくんが現実の生活の中でストレスに感じているものと、思うままに行動できる無敵のパワーが混在する夢の世界。
その中でマーティンくんは、壊しに壊し、繋げるだけ繋ぎ、「子ども」だけは慈しみ、人生を支配しようとしました。 自分自身の人生を。
夢から醒めた時、マーティンくんの脳裏に浮かんだのは、安堵だったのでしょうか?それとも失望だったのでしょうか?

彼の耳の奥では、今もなお赤ちゃんの泣き声が響いています。
赤ちゃんを、自分自身を救うため。
立ち上がったマーティンくんは再びムカデの夢を見るのか、それとも夢のような現実を完成させるのか。 
そのつづきは、私の夢の中で繰り広げられるのかもしれません。
ていうか、夢に出るわ!今晩オレは悪夢にうなされる自信があるよ! よいこのみんなは観ちゃダメ、ぜったい!


― 追記 ―

・ 聞くところによると、次回第3弾は1作目のハイター博士と本作のマーティンくん(の中の人)が再登板して、ムカデのパーツ数も500人を超える予定なんだとか。 ま た も や 雑 な 仕 上 げ に な り そ う な 予 感 ・ ・ ・ !!

・ マーティンくんは出オチみたいな顔をしているのに、初見の印象が薄れる事無く最後まで新鮮な気持ちで「うへえ」と感じられたのがすごいと思います。 おなかが出っ張りすぎて、パンツを穿いているのか脱いでいるのかパッと見判断つかない辺りも謎めいてグー! 途中なんかずっと裸に白衣なんだと思ってましたからね。どこのオンデマンドやねん。

・ 紙ヤスリを使った自慰行為、通称ヤスニー誕生。 人の探究心に限界はないのか・・・神よ・・・!

・ そんなんやってるから血尿が出るんだよ!ばーか!おまえばーか!

・ マーティンにバールのようなものでフルボッコにされ、頭がへしゃげてしまったおかあさん。 ぐっしゃりと潰れた頭蓋骨の隙間から向こうの景色が見える粋なカットに心震えました。これ!この作り物感ですよ! トム・サビーニ精神を感じたね!ぼかあ!

・ 「喋ることができないのではなく喋らない」という主人公の心象を、「ウーウー」「ダアダア」「ブrrrrr」という喃語(なんご)だけで表現しきったローレンス・R・ハーヴィーさんは、すごく演技力の高い役者さんなのではないか、と思います。 

・ 喃語に地団駄ふみに癇癪に寝便。 そう、マーティンくんはやはり赤ちゃんだったのだ。 幼い頃に負った心の傷によって、成長を止めてしまった赤ちゃんだったのだ。 そっかー、そうですよねー、伊達にオムツ姿が超似合いそうなビジュアルをしてるわけじゃないや!

・ それにしても、マーティンくんの雑仕上げっぷりを観ていると、前作のハイターさんがスーパードクターみたいに見えてくるんだから、にんげんのはんだんりょくってもろいものですよね! あたまのおかしいおいしゃさんにしか見えなかったはずなのに! 今や「神の手」!



前作の感想・・・『ムカデ人間』(1作目)

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『アウトロー』

2013年02月01日
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あらすじ・・・
場所はピッツバーグ近郊。 川沿いの遊歩道。 穏やかな日常を6発の銃弾が切り裂いた。
5人の死者を出した白昼の惨劇。 
監視カメラの映像や現場に残された薬莢などから、容疑者はすぐに割り出され、身柄を拘束される事に。
揃いすぎた証拠品に事件の早期解決を確信した刑事は、自白供述書へのサインを促す。
しかし、容疑者は自分の名前をサインするかわりに、無言のままひとつのメッセージを書いた。
その内容は、「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」。 


と、いうわけで、ぼくらのトム・・・じゃなかったジャック・リーチャーさんがやってきます!路線バスで!

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(文字通りの意味で)(バスで来た。)

イギリス人作家リー・チャイルドさんによる世界的ベストセラー小説「ジャック・リーチャー」シリーズが、満を持しての映画化。
頭脳明晰で、腕っ節が強く、曲がった事がだいきらいな元陸軍エリート捜査官を演じるのは、誰あろうトム・クルーズさんです。
代表シリーズ『ミッソンインポッシブル』とは一味違う、「アウトロー」なヒーロー。
そう、我々は今(トム史上)例を見ないような非常に「男くさい」ヒーローの誕生に立ち会おうとしているのです!
まさに歴史の生き証人! さあ!今すぐ劇場へ!


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(いい意味で変わり身の早いトム。)

軍を退役してからというもの、流浪の生活を送っているトム。
組織には属さず、携帯も持たず、クレジットカードも作らず、定職にもつかないで平日の昼間からゴロゴロしています。  ・・・いや・・えっと・・そういうんじゃなくてね、あのね、決してスーパーニートとかそういうんじゃないんですけどね、アレ・・なんでだろ・・何だかすっごい不安になってきちゃった・・・ごめん、ゴロゴロは想像!オレの想像!
基本的に荷物も持たない為、別の土地に移動するたび衣服一式を買い揃え、前の服はそのままゴミ箱へ直行。
夜寝る前に肌シャツを洗って干しておかないと、たちまち次の日がアウトになるという、緊迫感溢れる毎日です。
さすがアウトロー! 男くさい! パンツは洗ってなかったようなので、色んな意味で男くさい!

そんなトムと容疑者との関係はというと、何を隠そう、どちらも陸軍に所属していた間柄。
容疑者がイラクに駐在中に起こした連続発砲事件を担当したのが、当時憲兵として軍隊内の事件をせっせと捜査していたトムだったという訳なのです。
証拠ひとつも残す事なく、完全犯罪と思われた事件。 それをズバっと解決したトム。
トムなら・・・ (オレたちの)トムならきっと、コトの真相を突き止めてくれるはず・・・
そんな一縷の望みを込めて、最強ヒーロー・トムを召喚した容疑者。
かくして、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンと路線バスで駆けつけたトムの、トムによる、トムファンのためのトム祭り、いざ、開幕です! 
さあ、ファンのあなたは今すぐ劇場へ!


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(巣穴から顔を覗かせるトム&デュヴァル。)

映画の冒頭、冷血な狙撃犯の顔が、いともあっけなくスクリーンに映し出されます。
刑事コロンボ方式の導入部に驚く観客。
淡々と描かれる「無差別発砲」と、迅速な捜査によって割り出された容疑者の身元。
しかし、カメラが容疑者の顔をとらえた時、そこにあったのは一度も見た事のない別の顔。
警察の誤認逮捕が観客だけに知らされたこの瞬間の、たとえようもない高揚感。
すばらしいオープニングであると共に、今後の展開と、てくてくやってくるであろうトムへの期待で、胸がAカップマイナスからDカップぐらいに膨らみました。(※当社比)

監督と脚色を手がけたのは、『ユージュアル・サスペクツ』の脚本で世界を熱狂させたクリストファー・マッカリーさん。
無駄なセリフを排し、色んな事を(トムに)目で語らせるというスマートな演出で、落ち着いた大人な世界を作り上げていたと思います。
そう、130分という上映時間は決して無駄に長い訳ではないのです。
ファーストフードのようなお手軽な食事ではなく、長期熟成したお酒でもたしなみながらゆっくりとあじわう老舗の味のような映画。
もちろん、ファーストフードもおいしいですし、わたしはだいすきなのですが、地道な捜査をユーモアをまじえながら地道に描いてゆく本作も、なかなかどうしておもしろかったですよ。

大雑把にまとめてしまえば
「容疑者の無実をトムが晴らす」
という、ただそれだけのシンプルなお話なのですが、その大きな流れに絡めて、犠牲者の背景、遺族の葛藤、クズみたいな仲間とつるむしかない女の子、イラクで罪を犯してしまった容疑者の心の病みなどなど、細かなエピソードが紡がれており、そのどれもが物語に深みを与え、今思い返しても無駄なシーンなどひとつもなかったように思います。
もちろん、その中心で燦然と輝くトムの「まかせときんしゃい!」という笑顔なくしては、成り立たない作品だった事は言うまでもないのですけどね。

なんというか、実を言うと昔(20年位前)はトムの事、いけすかないニヤケ野郎ぐらいにしか思っていなかった私なのですけども。
年を重ねるごとに輝きを増す(テカってるとかそういう意味じゃなく)(そういう意味もゼロではないけれど)(だってそういう年齢ですし)トムのほほえみ。
観ているだけで「がんばれー!」と応援したくなってしまうのですよね・・テヘヘ・・。
トムを前に湧き上がってくる、この多幸感。 
もはや、トムがサイエントロジーなのではなく、サイエントロジーがトムなんじゃないかという気すらしてきました。
あの、ここあまり深く追求しないでください。

今回のトムは、決して超人ではありません。 イーサン・ハントのように裏をかく名人でもない。
荒くれ者と格闘している最中、背後に立たれてポカン✩なんて事も日常茶飯事です。(茶飯事ってコトはないか)
ただ、彼にあるのは軍人としてのすぐれた身体能力と、抜きん出た洞察力のみ。
そのふたつを武器に、いかにも頼りなさそうな女弁護士が抱えるヤマを片付けてゆく、その手際の鮮やかな事といったらね! ダイレクトに告白します!オレ、トムの事だいすきです!
あと、超人ではないのですが、やっぱ女こどもはトムと視線を合わせるだけで目がハートになりますよね! なぜなら彼はもう、超人とか特技とか、そういうレベルを超えてしまっているのだから!
法に縛られず、余計なしがらみも捨て、自分が信じる正義をもって困っている人を助けてゆくトムの新たな大冒険。
これはもう、おおきなスクリーンで観るしかない! 迷っているあなたも今すぐ劇場へ!


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(続くかどうかはあなた次第!)

お尻がビリビリするような重低音とともに繰り広げられる、大迫力のカーチェイスシーン。
名優ロバート・デュヴァルさんとトムのダブルきゃわわシーン。
いたって真面目なストーリー。
その長さも含めて、アガサは大満足でした。
聞くところによると、本国では微妙なヒット具合だったらしいので、鑑賞を迷っていらっしゃる方はぜひ劇場に足を運んでいただければと。
そしたらまた、トムが「まかせときんしゃい!」っつってバスにのってやって来てくれる・・かもよ!




― 追記 ―(※ネタバレあり)

・ とにかく全編ぶっとおしで「トムきゃわわ祭り」だった訳なのですが、サバンナの岩陰からひょこっと顔をのぞかせるミーアキャットのように「やっほーきたよー」と現れるデュヴァルさんが、これまた超きゃわわでしたね。 ふたりで敵陣へと乗り込むくだりは、胸アツというより萌え転がるといった印象で、じぶんちの茶の間だったら座布団抱えてジタジタしていたと思われます。

・ そんな中、今回のマイ・フェイバリット・トムは「射撃の準備をすればいいだけなのに、なぜか銃を抱えてゴロゴローってするトム」です。 その動きいらんやろ。 だが、そこがいい。

・ 罪を着せられ、警察隊から逃げ惑うトムが、車を乗り捨てシレーっとした顔でバスに並ぶシーンもさいこうでした。 謎の一体感イイネ!「おまわりさんに対する苦手意識」は万国共通!

・ 黒幕を演じていた不気味な俳優さんが、実はドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォークさんだったとはね! 『ノスフェラトゥ』と『バッド・ルーテナント』くらいしか観た事はないのですが、まさかこんなメジャー系の映画に俳優さんとして出演されるとは・・・。 ええもん魅せてもらいました!

・ その黒幕、「めちゃくちゃおっかない人」として紹介されていたものの、いや、たしかにおっかないのですけど、結局どうして刑事がヘルツォークさんの言いなりになっていたのかよくわかりませんでした。 けれど、最後に中の人がヘルツォークさんだった事を知り、「じゃ、しょうがないか!」となんとなく納得しましたね! もうここは、納得した方がいい!そんな気がする!

・ 関節を弱い方向から攻めれば敵は大ダメージを受ける。 アガサおぼえた!

・ すべて終わったエンディング前。 別の土地へとバスで移動するトムが、車内での揉め事に首をつっこもうと立ち上がる姿を観ていて、なんとも言えない安心感に包まれました。 なんだろう、なんかね、もうずっと観ていたいんですよね、トムを。

・ という訳で、もしも映画の続編が作られないようでしたら、ぜひ日本独自の展開としてトムにオファーし、水曜日の夜9時くらいの枠で『はぐれトム純情派』みたいな連続ドラマを企画してみてはいかがでしょうか。 毎週人助けするトム。 1時間くらいでサックリと。 ほんでまた、次の土地へ・・・バスで・・・。 恋バナもあるでよ!



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