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『ビバリウム』

2021年03月21日
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あらすじ・・・
理想の居住環境を手に入れたカップルが育児に四苦八苦します。

(※ 以下ネタバレしています)


人生の目標はその時その時で変わるもの。
たとえば小学生の頃なら、かけっこで一番になりたいことだったのが、中学校にあがる頃にはモテることになっていたり、高校に入る頃には恋人を作ること(そう、もちろんモテと実際の交際とは別の概念である)になっていたり、高校になじんだ頃には、数年後に進むべきはさらなる勉学なのか就職なのか、はたまた勉学は勉学でもどういう方向性の知識を身につけるべきなのか、などなど、自分の数歩先の人生に輝いているであろうゴールについて意識しはじめる。

そして、最終的に多くの人は、人生のゴールをこう設けようとするのではないだろうか。
衣食住に困らない生活。 と。

ちがうちがう、そうじゃない。 わたしのゴールはすきなことで生きていくことだ。 自分のゴールは世界一の金持ちになることだ。
そうかもしれない。 細かくいえば様々あるかもしれない。 
けれど、それらを根底で支えているのは衣食住に困らない生活なのだ。
大企業に入って高収入を得ようと、専門職について細々とやろうと、その日暮らしでなんとかしようと、とにかく人は食って寝なければ生きてゆけないのだ。 
その内容に違いはあるだろう。 高水準か低水準か、平均的水準か。 満足度はどうか。
しかし、とにかく人は食って寝ずにはいられない。
食って寝てさえいれば幸せなことすら少なくない生き物なのだ。

さて、ここにそんな「人」がたくさん生息する星がある。
多くは語られないが、とある「人」に似た生き物が、この星を新たな定住地として選んだ。
彼らは子どもを作ることができるが、大きくするのは苦手だった。 
時間も手間もかかりすぎるし、そもそも彼らがよそ者な以上、その価値観をあたえられた子どもたちだとこの星の社会に溶け込めない。
なんとか効率的な繁殖方法はないものか。 
そんなことを思いながら「人」を観察していたのだろうか、彼らはとてもいかしたアイディアを思いついた。
そうだ、「人」に育ててもらおう、と。
「人」の価値観はそれを一番理解している「人」に与えてもらえばいい。
うまれたての赤ちゃんはどうやって言語や生活習慣やモラルを身につけるのか? そばにいる人から学ぶのだ。
絶え間なく繰り返す模倣と反復作業と刷り込み、それらがまっさらな赤ちゃんをいっぱしの「人」に変えるんじゃないか。
それに、なんといっても「人」は養育のエキスパート。
母性本能なんて便利な機能はついてないけれど、目の前に小さな生き物がいれば反射的に「かわいい!」といい、自分をたよってくる仕草にほだされ、意思の疎通がうまくいかずイラつくことはあるけれど、なんだかんだで情がわいてしまう性質を持つ「人」は、なんやかんやで養育してしまうことが多い。
任せてしまえばいいのだ、彼らに。

彼らは養育を任せる代わりに、「人」がもっとも望むものを用意した。
人の最終目標である、衣食住に困らない生活である。
かくして、人生のゴールともいえる理想の住環境を無料で手に入れたカップルと、その提供の見返りとして当然ともいえる養育を期待した「彼ら」の、笑うに笑えないすれ違いドラマが幕をあけるのであった。


いやあ、おもしろかったですね!
きっとなにか反撃があるはず、と思いながら観ていたら最後までやられっぱなしで幕を閉じる物語なので、「結局なにが言いたいねん!」と怒るむきもあるかもしれませんが、要点は映画の冒頭の「カッコウの托卵」映像でかいつまんでありますから、ホントもう、そういうことなんですよ。 養育を任せちゃうんです。 この宇宙人は手抜きがすぎるな!
いやしかし、養育部分こそ手抜きですが、そこに至るまでの工程となるとまあまあ手がかかっていますし、いざ育った宇宙人がもれなく不動産屋になるのかそれとも他の職業にも派遣されているのかも気になるところ。
そもそもあのペースで現時点、人の社会にどれぐらいの割合で浸食できているのか。
あの不動産屋は全米に何軒存在しているのか。 
アパマンショップとどちらが多いのか。
採算はとれているのか。
不況で一軒家をもつ余裕のないカップルが増えていそうですが、今後戸建て以外の賃貸住宅サービスにも進出予定はあるのか。
あの販売員は独身なの?
結婚は? 恋人は? 調べてみました!

話を戻しましょうか、戻しますね。 
で、カッコウと違うのは、よその巣を乗っ取るのではなく、(いちおう)ちゃんとした巣を用意し食事も三食宅配、水道光熱費すべて発注元負担な上で養育のみ任せるところで。
これ、ニクイですよね。 
家を探していたカップルは元手一切不要なんですよ。 
しかも移住後の生活費もタダ。

普通、家を買うってゴールのようでゴールではなく、むしろスタートなわけで、一生かけてコツコツお金を返してゆかなければならない、「安定」という名の呪縛を背負うようなものじゃないですか。
それが、家もタダ生活用品もタダ食事もタダで税金も発生しないとか、考えようによっちゃあラッキーですよおふたりさん。
人は働かずに安定した生活を手にするという究極の望みを叶えられるし、宇宙人は一番やりたくない養育を丸投げ出来るし、これもう俗にいうウィンウィンじゃね?
と、宇宙人は考えたんでしょうね。 
なんだったらよかれと思ってる可能性すらある。
なんだろうこの宇宙人。 わかってるようでわかってない、ありがちな配偶者みが強すぎる。
そうじゃねえ。 いやたしかにそれもあるけどそうじゃねえ。 
用意された安定がすなわち幸せなんじゃねえ。
安定の内訳を自分で選択できることが幸せなんですよ。

この物語が繰り広げられる舞台となっているのは、いわゆる郊外型住宅。
平均的所得者たちが似通った敷地面積の似通ったおうちで似通った生活を送る、アメリカではおなじみのこの住宅地は、ネガティブな形やポジティブな形の両方で様々な物語に登場してきましたが、本作ではその「平均的」さが存分に悪用されており、描写といい含められた意味合いといい、舞台装置として実に冴えわたっていましたね。
「ビバリウム」は「生物本来の生息環境を再現した空間」という意味だそうですが、宇宙人が用意した郊外型住宅はまさに人のためのビバリウム。 
怒るなんて筋違い。 
だって人だって生き物に同じことやってんじゃん、という宇宙人の嘆きが聞こえてきそうですね。 という監督のしたり顔が見えてきそうですね。 この監督の嫌味がすごい2021!

シンプルな筋書きとシンプルな描写で、ものすごくイヤな人生の側面をみせてくれた本作。
人生はあっという間で、結婚は人生を縛る鎖で、子育ては話の通じない異星人との同居みたいなもので、消費しているようで消費されているのが世の常で、子育てを終えたころには人生の盛りも過ぎるし、余暇を楽しもうにも肉体の自由が利かなくなるし、遅かれ早かれ死ぬ。
すべて(ある意味)事実ですけど、あえて映画にするとこいらへんが性格悪すぎてシビレますね!
なんつうか、アリ・アスター監督と似たにおいを感じる。
どうか丸くなることなく、この道を突き詰めてほしい。
ロルカン・フィネガン監督、末永いおつきあいになりそうです!





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『TENET テネット』

2020年09月22日
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あらすじ・・・
友情!努力!勝利!!


(※ 訂正・追記しました /9月22日)

(※ 以下ネタバレしています)


めちゃんこ知的な作風と圧倒的な映像美、そして偏執的ともいえるマイケル・ケイン愛で世界中の映画ファンを困惑虜にしてきた巨匠、クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET』を観てきましたよ!
いやぁ、知的だった知的だった! 
なにせ開始数分で「エントロピーの減少が・・・」とか言い始めますからね! 
エントロピーですよエントロピー! 今までの人生においてなんど聞いたことがあるだろうかエントロピー!
知的度合いでいったら『インターステラー』でさんざんわたしをけむに巻いた、「ぼくがかんがえたさいきょうにちてきな高次元エンディング」を超えたかもしれません。
思い出すなぁ、映画館で観た時のあの衝撃。
TARSくん:「時間も物理的な次元や空間をも超えられることが可能になったブラックホールの一丁目三番地で、五次元の中に三次元の子ども部屋を再現してくれた高次元くんたちの協力のもと、事象の地平線で観測された量子データをモールス信号に変換し地上に伝えるんだ!!」
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でもね、あの時も「仕組みは結局よくわからんけど、親子の愛が深かったおかげで再会も出来たし人類も救われたからまぁよかったんじゃね!」とうまいことけむに巻かれ、その上感動の涙すら流してしまったわけですから、きっと今回もすんなり飲み込めるはず!
ノーラン先生!ごっつあんです!!

・・・と思ったんですけど、まぁ入んなかったですよね。 
しょっぱなのエントロピーでくじけ、その後も核融合の逆噴射とか反粒子とか陽電子とかが完全にのどに詰まり、結局わかった分量とわからない分量でいったら圧倒的に後者のまま鑑賞を終えてしまった。
このままでいいのか? 設定についていけないせいで映像もよく味わえないままごちそうさましてしまっていいのか?
と、いうことで迷うことなく二周目突入。
いいんですよ。 そのために今日仕事休みにしたんだから。
で、わかりました。 いや、もちろん全部は飲み込めてないけど、おいしくいただきました。
主人公とその相棒に込められた、ノーラン先生の濃厚なアレをね!!

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(※映画を観終わってからこの画を見るとそこはかとなくキュンキュンしますね)

舞台はキエフ。 
今まさにコンサートが始まろうとしていたオペラハウスを占拠するテロ集団と、まるでその襲撃を知っていたかのようにバッチリのタイミングで劇場を取り囲む特殊部隊の攻防から物語はスタートします。
特殊部隊に違和感なく混ざり込む、数人のアメリカ人工作員。 
その中のひとり・名もなき男は仲間らしき男性と合流し、男性が入手したプルトニウムの回収に着手しますが、観客を守ろうとしたことから周囲の特殊部隊員から偽者であると見抜かれてしまい、頭に銃口をつきつけられます。
万事休すと思ったその瞬間、目の前で時間が巻き戻され、どこからか現れた黒ずくめの男性の発砲で命を救われる名もなき男。
お礼をする暇もなく立ち去る黒ずくめの男。 そのかばんには、幸福の五円玉(のような)お守りがぶら下がっていたのでした・・・。
それはさておき、やっと劇場から脱出した名もなき男。 
しかしプルトニウムだと思っていたものは得体のしれない機械で、合流場所にいた白いバンの中には見知らぬ男たち。
男たちは、なにがしかの情報を聞き出そうと名もなき男とその仲間を拷問しますが、ハードな訓練を受けていた名もなき男は迷うことなく自決用のカプセルを服毒。
遠のく意識の中、名もなき男の顔に映し出される「TENET」の文字。
そう、タイトルです。

と、このオープニングのシークエンスがすさまじくおもしろい! 
突入・脱出・銃撃・爆破・拷問からの主人公死亡までが、息もつかせぬ怒涛のスピードで描かれて、なおかつ合間に時間の逆行までお見舞いしてくれるんですからサービス過多で酸欠になりますって。 もうこれぜったいおもしろいやつですって。

目覚めた主人公を待っていたのは、また別くちの謎の男。 この映画、謎の男率が異常に高いです。
主人公からして「名もなき男」ですからね。
CIAの工作員っぽさは匂わされているものの、モノホンのCIAなのかいわゆる「CIAの方から来ました」案件であるのか、どういう経緯でこの仕事についているのか、家族はいるのか、目標としているものはあるのか、仕事のモチベーションはなんなのか、すべてが謎のままです。
で、謎の男から「秘密を守るため自決するとはあっぱれ!」と、うれしいようなうれしくないようなほめられ方をした名もなき男は、先の作戦において唯一のテスト合格者であったことを告げられ、「世間的には死んだことになってるから世界を救う手伝いをしてほしい」と誘われます。
っていうか、キエフのアレ、テストだったの? 仲間全滅しちゃったけど、テストで済まされちゃうの? 
それとも結果的にテストになっちゃったっていうアレ? そこんとこ、まあまあ重要な気がします・・・!

重要視していたのはわたしだけだったのか、名もなき男は世界を救うミッションへの参加をすんなり決意。
ノルウェイにある謎の組織の研究所で、時間の逆行について説明を受けます。
研究員いわく、ある日未来から様々なブツが届けられるようになった。 
その中には銃弾を多数撃ち込まれた壁や、なんの機械だったのかよくわからないパーツなどがあり、解析の結果、先の世界は「冷戦」状態にあり、最終的に人類を待ち受けているのは絶滅というシナリオだというのです。
もちろん、そんなシナリオ受け入れるわけにはいかないし、未来人にも過去を変えたがっている良識人がいる。
送りつけられているブツは、その手助けのためであろう。 
なにせ普通のブツではありませんから。 
時間を逆行できるブツですから。 なんで出来るの?じゃないんですよ。できるからできるんですよ。未来人なめんなよ。

名もなき男は、手はじめに未来からきた銃弾の素材を確認。 
原材料の産地がインドであることを割り出し、インド在住の超大物武器商人・サンジェイ・シンへの接触をはかります。
まずはインドで協力者を手配し、落ち合ったエージェント・ニールと作戦会議。
警備の厳重な高層マンションへの侵入方法は、なんと76メートルを一気に上昇する逆バンジーに決定です。 そりゃトム(クルーズ)も気に入るはずだわ!!

(※これはぜったいやりたくなったに違いない顔)(※オレならブルジュ・ハリファのてっぺんまで逆バンジーしたるわっていう顔)

一瞬で家宅侵入を成し遂げた二人に明かされる衝撃の事実。
なんとサンジェイ・シンはただのお飾りで、真の武器商人はその妻のプリヤだったのです! うん、すまん、衝撃でもなかった。
プリヤから銃弾の取引先としてロシアの超大物武器商人・セイターの名前を聞き出す二人。
次なるターゲットはセイターの妻・キャットです。
どうしてセイターに直行ではなく妻をおとしにかかるのかというと、妻は絵画の鑑定人をしており、浮気相手が作った贋作を自らの店でオークションにかけ、武器商人の夫に競り落とされて脅しのネタに使われているからです。 
え? わかりにくい? 
妻には弱みがあるでしょ? その弱みを解決してあげると持ち掛ければ、言うこと聞いてくれるじゃないですか。
え? どんなこと頼むのって?
夫に紹介してもらうんですよ!
いやそれ直行でよくね?

いいですか、ここのくだりをまわりくどいとかわかりにくいとかでとらえてはいけません。
なぜなら一番の理由は「絵画にくわしい大物英国紳士としてマイケル・ケインを出したかった」もしくは「今回マイケル・ケインを使えそうなのがここぐらいしかなかった」、それに尽きるからです。 ノーラン先生は認めないでしょうけど、ぼくにはわかります。
だって別れ際、名もなき男に「そのスーツは安物だから大物に会う時はもっといいスーツを仕立てなさい」ってブラックカードをスッと出すんですよ! 英国紳士+スーツ+仕立てときたらアレしかないじゃないですか!

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(※マナー・メイクス・メン!!!)

せっかくマイケル・ケインが渡してくれたものの、その後の展開に特に大きく役をなさないゴヤの絵画のことはさっさと忘れ、キャットとの交渉を終えた二人。
まずはセイターが競り落としてオスロ空港のフリーポート(非課税の美術品管理倉庫)に預けているであろう贋作を、空港の火災騒ぎに乗じて盗み出す作戦のスタートです。
ときにみなさんは「火災騒ぎ」と聞いて、どれぐらいの騒ぎを想像するでしょうか。
火災報知器をしばらく鳴らせるくらいのボヤ騒ぎ?
まさかノーラン先生が貴重なIMAX 70mmフィルムをボヤ騒ぎ程度のために使用するとでも?
もちろんそんなはずありません。
壊すために作る、燃やすために買い取るなど、もはやノーラン先生にとっては日常茶飯事。
映画芸術とはこういうことをいうのです! とくとごらんあれ! ハリボテでもない、デジタルでもない、これがモノホンのボーイング747だ!!!
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(※札束の暴力)

普通に盗み出せなかったのだろうか。

フリーポート内になぜか設置してあった回転ドア。 
ガラスに隔てられたその部屋で、ふたりは時間を逆行してきたであろう謎の男と格闘することになりますが、結局男には逃げられ、回転ドアがあった理由もわからないまま空港をあとにします。 すんのかよ。
ある程度倉庫内も燃えたっぽかったので、キャットには「贋作のことはもう片付いたから安心してくんろ」と報告。
段取りをつけてもらい、ベトナムのリゾート地でついにセイターとご対面です。
しかし、セイターはキャットの知り合いを自称する名もなき男に敵意をむき出しにし、挨拶もそこそこに「このあと裏庭でおまえの喉を掻っ捌いて切り取ったキンタマを詰め込んでやる」と先制パンチ。 
「一度でいいから見てみたい、おまえが喉からキンタマをつかみ出そうともがくトコ」とダメ押しの強いラインまでお見舞いしてくるセイター。
やはりロシアの武器商人ともなると悪口の純度が高いですね。 
初対面の人に目の前でこんなこと言われたら、意味が分からな過ぎて大声で泣いてしまう。泣いてしまうわ。
そして、こんなことまで言われたのに家の中を嗅ぎまわっていて、セイターがなにがしかのブツを受け取る現場をのぞき見してしまった名もなき男。 
案の定ブチアガるセイターをなんとかいなし、翌日キャットと三人でヨット遊びに興じることとなるのですが、今度はキャットが航海中日頃の恨みからブチアガってしまい、セイターを海へ突き落とします。
あわや殺人。 しかし、それも無理はありません。
セイターは映画史上に残ると言っていい、最低最悪のモラハラ自己中夫だったからです・・・!!

ということで、まあまあ細かく書いてきましたが、この調子でいくと読むのがいやになる長さ確定なので、ここからは要点だけをまとめていきます。
今回、名もなき男とニールが成功することを期待されていた「人類滅亡回避」というミッション。
その首謀者はこの夫セイター。 ロシアの武器商人にして時間の逆行を駆使し財を成した男。
生きるためプルトニウムを拾い集めるという悲惨な青年期、たまたま見つけた(あるいは見出された)時間逆行の鍵・アナグラムによって未来人とのコネクションに成功し、巨万の富を手に入れると同時に社会の暗部を知り尽くしてしまったセイターは、この世の中に絶望していた。
増えすぎた人口、破壊される自然環境、そして手の施しようのなくなった自らのすい臓がん。
独占欲という檻の中に閉じ込めた妻から向けられる憎しみの視線にも、もう耐えられない。
最近の映画で人類を滅亡(もしくは半減)させようとする悪役は、判で押したように「人口爆発!環境汚染!わるいのはニンゲン!」と言い始めますし、セイターもまさにそのタイプなのですが、この妻に対する異様な執着心はある意味実際にいそう過ぎてゾッとしましたね。
愛しているから独り占めしたい、って、ノロケの一環としても使われそうな文言ですが、これ完全にダメなやつですからね。
自分だけのものにしたい、すなわち、妻が自由に生きることは認めない。
仕事をしてもいいけど自分が認める分だけ。 
なにかにつけて首根っこ押さえるような言動で縛り付ける。
子どもとオレとどっちが大事なんだ!って怒る。
人を人として扱わない典型的なモラハラ人間、めっちゃいるじゃないですかその辺に。
今回、セイターは精神的・物理的の両方から暴力をふるい、キャットをがんじがらめにしているトコロが非常に凶悪ですし、正直、「死期が近いから地球のみんなを道連れにして自殺をはかる」という動機以上にタチがわるいのではないでしょうか。
キャットがそんなセイターとの関係を断ち切ろうと、一度目の失敗、二度目の躊躇を経て三度目に引き金を引いた瞬間は、暴力的でありながら解放感も否定できない、すばらしいシーンだったと思います。
ついに手に入れた自由とともに海に飛び込むキャットと、その姿を見つめる過去(まだ囚われたまま)のキャット。
いやぁ、うつくしかったですね。

そして、うつくしかったといえばそう、主人公とニールの友情のまあうつくしかったことといったらね!

ムンバイのホテルではじめて会った時から、ニールが名もなき男に向けるまなざしはやさしかった。
そしてなぜか個人的なこともよく知っていた。
少し考えれば最初からわかることだったじゃないですか。
これ『ターミネーター』でみたことあるやつだー!! ・・・って。
ニールはカイル・リースで、彼にとって名もなき男はジョン・コナーであり、サラ・コナーでもあるんですよ!!
ターミネーターと違うところは、カイルが未来に戻ること。
破滅が避けられた地球で、自分とジョンがいつか再会できる日をたのしみにしていること。
最高じゃないですか!なんでこれターミネーターでやんなかったんだろ! あ、形はちがうけど『4』でやってたか。
まったくもう、冒頭のキエフから始まってクライマックスのスタルスク12まで、いったいニールはなんど名もなき男を助けたのだろうか。
なんど過去と現在を行き来したのだろう。 その先で待っているはずの友情の始まりを夢見て。 
今までのノーラン作品に、こんな気持ちのいいラストシーンがあったでしょうか。 あったらすまん。
謎の五円玉お守りというベタすぎる伏線も、こんなふうに回収してくれるんだったら何の文句もないっす。 ベタ、いいっすね!監督!ベタ最高!
服毒したものの薬のすり替えがありよみがえった名もなき男。
夫に撃たれ瀕死の重傷を負うも仲間の助けでよみがえったキャット。
本来のミッションでは殺されていたが現在の自分による逆行の結果よみがえったニール。
それぞれが自分や周りの力で死と生を反転させる物語は、なんかしらんけど強くてすき・・という気持ちになるし、自分の意思で飛ぶシーンもやっぱりすきです。 すきです、ノーラン先生。 
これからもどうかしている作風でよろしくおねがいします。 

というわけで、二周してみた結果、理屈がちゃんと理解できたのかどうかといったら怪しいところ満載なのですが、そこはほら、研究員のバーバラさんも適当でいいって言ってましたし、名もなき男も「そっか、直感でいいのか!」と驚きの嚥下力をみせていましたし、いいんですよ! 要は時間を逆行できる回転ドアを未来人がプレゼントしてくれたってことで! やるときゃやるんですよ未来人は!

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(※「考えないで、感じるのよ」) (※マジでそう言う)

同じフレームの中に、逆行するものと順行するものとが混在するという驚異の映像。
後ろ向きに走ってるっぽい人もいれば、逆回転させたっぽい鳥もいるんですけど、ほんとどうやって実現したんでしょうね。
脳が追い付かないほどの情報量が詰め込まれた世界は圧巻のひとこと。
一度では理解できない、いや、一度で終わらせるのはもったいないという方が適切ですね。
観るたびに点と点がつながり、見落としていた超絶技巧に酔いしれることのできる、豪華絢爛な作品でした。
あと、音がとにかくよかった! 音楽、音響ともにめちゃくちゃ打ち付けてきます。大洪水です。たまらん!

概ね理解できたふうに書きましたが、実はどうしてもわからない点がひとつありまして、逆行世界では重力以外のほとんどがわれわれの過ごしている順行世界とは逆で、酸素も肺に入っていかないので外に出るときは酸素マスクが必須という設定だったのですが、最後のスタルスク12とベトナムのヨットで同時に行われるシーン、どちらも過去(逆行世界)ですよね?
スタルスク12はみんなマスク着用だったのでいいものの、ヨットにいたキャットと沖合のマヒアさん、ノーマスクだったじゃないですか。 あのヨットの日って、最初のキエフの事件があった14日ですよね? ってことは過去ですよね? なんで息できてたんだろ?
あと、波もふつうでしたよね。じゃあ逆行世界じゃないってことなのかな?

14日にキエフの事件があって、
そのあと名もなき男とキャットが出会って、
その時ベトナムのヨットでの出来事を聞いて(キャットが見たという海に飛び込む女の話も出る)、
そのあとオスロ空港があって、
セイターを紹介されて、
タリンでカーチェイスして、
キャットが撃たれる。 (ここまでは順行)

キャットを救うためタリンのカーチェイスに戻り、(逆行)
救急車を調達するためオスロ空港まで戻り、(逆行)
ノルウェイ沖合の洋上基地で作戦会議して、(ここは一旦現在?)
14日のスタルスク12とベトナムに戻る。(再び逆行)
ということだと思って観ていたんですけど、よくわからなくなってきた・・・


で、検索していたら海外のサイトでちょうど同じこと質問している方がいました!
SPOILERS: Kat's final inversion.
逆行世界(過去)の中でもういちどドアをくぐったら反転の反転で過去にいながらもマスク不要の順行状態になるということですかね?
マイナスとマイナスをかけたらプラスになるみたいな感じなのかな?
うーん、二周じゃ無理!


※ 以下追記

実はこの感想を書いたあとも、どうも頭のなかがスッキリせず悶々としておりまして。
キャットがマスクをつけていなかったくだりじゃないですよ。 
あそこはもう、「反転ドアをくぐったら逆行の世界に入るけど、その中でもう一度回転ドアをくぐったら体は順行モードになるので普通に生活できる」ということで飲み込みました。
そんな都合のいい話あるかぁ?! と思ったら負けなので、オレ、飲み込んだ。 
じゃなくて、飲み込みきれない事案はひとつ。
死体ですよ、死体。 檻の内側に転がっていた死体。
もちろん、五円玉お守りを持っていたのでこの死体はニールであることはわかっているのですが、いまひとつ時間の流れだったりテネット設定を理解しきれていなかった(※「いいんだよ、こまけえことは」精神で見て見ぬフリをしたともいう)わたしは、ニールが死んでいたのがどの段階だったのかわかっていなかったのですよね。

で、すべてのミッションを終えて三分割したアナグラムを名もなき男に預けたニールが「すばらしい友情の終わりだ」と告げるシーンも、「ああ、このニールとはお別れなんだなぁ」ぐらいにしか思っていなかったのです。 
だって、この世界にはもう一人のニールがいるわけですし。
この数年後に、名もなき男は自分を救うことになるニールに出会う。 
その頃、このニールはどこで何をしているんだろうなぁ・・・ 自分同志が出会っちゃったらマズいから、どっかでこっそり名もなき男を見守ってるのかなぁ・・・ ウフフ…アハハ…  なあんてのんきに信じ込んでいたのですよ!いや、欺瞞はよそう!そう思いたかった!どこかで生きていると思いたかったんだよ!オレは!!!

本来のミッションでは、他のテネット隊員と共に逆行しつつ施設潜入してあの檻までたどり着いたはずのニールが、名もなき男が生き埋めになる可能性に気づき、急遽回転ドアをくぐりなおして順行モードに転じ、車のワイヤーで名もなき男と隊長を助けた。
このくだりで、死んだはずのニールは死を回避して名もなき男と生き延びたと思っちゃったんです。
だって、ここで死んでしまっていたら、この先名もなき男が出会うはずのニールまで消えてしまうじゃないですか。
過去のニールが消えた時点で未来のニールも消滅するじゃん。 そういうもんじゃん。 祖父殺しのパラドックスじゃん。いいじゃんいいじゃんスゲーじゃん。
ほんで思わずつぶやいちゃいました。 じゃあ最終的に名もなき男を助けてくれた、あの死体のニールはどこからきたの?と。


そのあと、リプライをくださった方との会話や自問自答の末、やっと現実を受け入れたわたし。
わかった。 悪あがきはもうやめよう。 認めようじゃないか、ニールは名もなき男と別れたあと再び回転ドアをくぐり、本来自分が向かうはずだった檻の中で生涯を終えるのだと・・・。
ノーランてめえなんつうオチつけやがったんだよ(※自主規制)するぞこのやろう


名もなき男目線で物語を観ていたので、彼の人生に出てくるニールとそのタイミングに悶々としていたのですが、この物語は名もなき男がニールの人生に追いつく話だったのですね。
この数年後、テネット部隊を率いることになった名もなき男は、とある困難なミッションでニールと出会い、友情をはぐくむ。
それはニールが終えた友情。 名もなき男にとっては初めての友情。
のちにニールが亡くなる道に、名もなき男の道が重なる瞬間。 
その瞬間の前フリがこの映画だったのか。
わかった、飲み込んだ。 今度こそ飲み込んだ。
ただね、飲み込んだうえで言わせてもらいますけど、そこまでわかった上でそんな残酷な運命受け入れるかな?名もなき男は。

間違ってたらごめんやけど、結局回転ドアって何度でもくぐっていいんですよね?
ニールがやったように展開にあわせて直前でくぐり直したり、セイターがやってたように都合のいい分だけ逆行したりしてもいいんですよね?
だったら、これまでのニールの献身を知り、友情を知り、のちに自分が下すであろう無情な指令まで知った名もなき男が、「でも起こることは起こるからしゃーない」って受け入れます? オレはそうは思わんね!!

映画本編が終わり、最後に映し出されるワーナーのロゴは逆行を示す青でした。
オープニングは順行の赤。
わたしはこれを、「もっかい映画観直してね!」の逆行ではなく、名もなき男がニールを救うための逆行、その始まりだと思いたい。
あいつならやってくれる。 
ニールを救ったうえで世界も救うような、エクストリーム逆行をひねりだすはず。
そうじゃないんだったとしたらやはりノーランを(※自主規制)するしか

がんばれ名もなき男!(とノーラン監督) 




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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

2019年12月26日
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あらすじ・・・
死者がシャベッタアアアア!!!
どっこい生きてたパルパティーン、情報集めるレイア姫、最後の希望のレイちゃんは、今日も今日とて修行の身。
一方イキりレン太郎ことファースト・オーダーの最高指導者カイロ・レンくんは、邪魔なじじいを殺そうと宇宙の果てまでえんやこら。
スカイウォーカー一族に夜明けはくるのか! 
レイちゃんをめぐる恋のさや当てにも要注目だよ!!



以下、ネタバレしていますので、ご鑑賞後の方か、未鑑賞だけどあんまそういうの気にならないからバレててもいいよという方のみ、このままお進みください。
あと、流れ弾的に『アベンジャーズ/エンドゲーム』のネタバレにも触れてしまっていますが、ホントすみません。



どうもこんにちはー! チョロいファンでーす!!

もうね、圧倒的にチョロいですよね。
『フォースの覚醒』、『最後のジェダイ』と勝手気ままに文句を垂れ流してきた自分がここまでチョロかったとは思いませんでしたが、実際問題観てみたらまあチョロかったのなんの。 気づいたら勢い余って5億点!とか口走っていましたからね!


数十年にも渡るサーガの締めくくり。 
ついに公開を迎えようかというこのタイミングで、早くも2022年に作られる新作の話や数日後配信が始まるスピンオフの話がネットを賑わせており、この世(ディズニー)には余韻もへったくれもないのか、と物悲しい気持ちになったりもしましたが、とにかく締めくくられる運びとなったスカイウォーカー家の物語。
オリジナルの焼き直しと批判されたEP7や、史上最悪のルークの無駄遣いが問題視されたEP8のアレやコレやを、全てうやむやにするべく作られたEP9。 
それは「スター・ウォーズ・ファン大感謝祭」と呼ぶにふさわしい「全部のせ」でした。

死んでいないキャラクターは全員集めよ、という大号令のもと連れてこられた、ランド・カルリジアンをはじめとするオリジナルキャストのみなさん。 
前回も出ていたナイン・ナンさんはともかく、超お久しぶりのウェッジ・アンティリーズさんがスクリーンに映った瞬間なんかすすり泣きでしたからね。 
きっと現役から退いて久しかったであろうウェッジさんが、ランドとチューイの呼びかけに応えるため老体に鞭打ってコックピットに戻ってきてくれたんですよ。 
相当の覚悟じゃないですか。 
なんだったら、周囲に別れも済ませてきたかもしれない。 いや、きっとそうだろう。 これが泣かずにいられるかっつうの。
レイア姫の出演シーンも、ありもののフッテージと後姿の代役とCGで、出来うる限りのリアリティを表現していてよかったと思いますよ。 あれ以上は無理だったろうな、というギリギリのライン。 
最低限でしかなかったけれど、大活躍でライトセーバーぶんぶん振り回す展開よりは、なんとなくよかった気がします。
「ベン」のひとことであんなに伝わることがあるんだなぁ・・・。(※思い出して号泣)

あとね、正確にいうと死んだ人も連れてこられてた。 
パルパティーンはゾンビ状態の上、クリーニング屋さんで吊るされてる洋服みたいにゆらゆらしながらやってきたし、ハン・ソロに至っては「記憶」という状態で登場。 
いやね、ジェダイ・ナイトでない以上、フォース・ゴーストにはなれないじゃないですか。 どうすんのかな、って思ってたんですよ。 最後だし、ハン・ソロはきっと出るだろう。 方法だけが問題だ、と。 
そしたらまさかの「記憶」ですってよ奥さん。 
その手があったか!っていうかそんなんでいいのか!いいんだよ!!!(※チョロいファンの叫び)
もちろん、引きこもり系ジェダイ・マスターのルークもジェダイ・ゴーストと化して再登場ですよ。
前作終了時に想像した通り、霊体になったことで責任感もシースルーになったのか、ずいぶんこざっぱりとした表情で出てくるルーク。 
自身の出自を知り思い悩むレイちゃんに、「逃げたらジェダイは終わりなんだよ・・」とクソみたいなアドバイスを送るルーク。
いやいやいやおまえ前回まさしく「逃げてジェダイを終わらせようと」しとったやんけ! 「もうジェダイなんか滅んだらええんや」ってやさぐれまくっとったやんけ! どの顔でアドバイスしとんねん! そんなんでいいのか!いいんだよ!!!!(※チョロいファン得心の雄叫び)

キャストを揃えたら、お次は過去の名シーン・名セリフの完コピ・・・じゃなかったリスペクト大会。
ルークがヨーダのようにXウィングを水中から取り出せば、レイはルークのようにヘルメットを被りフォースの特訓に励む。 
ランドとチューイはクラウド・シティでルークにやったようにファルコン号でフィンとジャナを救い、レイはダゴバの洞窟でルークが挑んだように暗黒面に堕ちた自分の影と対峙する。
次から次へと繰り出される懐かしの「スター・ウォーズあるある」は、多くの観客をガッカリさせたかもしれませんが、また多くのファンを大喜びさせるものでもあったのではないでしょうか。
誰かが誰かを想い、誰かが誰かに志を託し、誰かが誰かを助けるために命を捧げる。 
時に選択を間違い、暴走し、悲劇を生み、再び愛によってゆるされる。
スター・ウォーズがずっとやってきたことなんですよ。
そしてわたしはそういうスター・ウォーズがすきだったんだなぁ・・・と思いました。

思い起こせば小学4年生の秋、テレビで初めて『スター・ウォーズ新たなる希望』が放送された日。
近所の神社では秋祭りが開かれていて、わたしはまだ『スター・ウォーズ』を知らない子どもで、ただ単にお祭りから帰ったらテレビもお祭り騒ぎをやっていた、というだけの認識だった。
「宇宙ものか・・・いいな」
気づいたらテレビにかじりつき、お風呂に入れという両親に「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ」と嘆願し、レイアにメダルをもらうルークとソロにうっとりしながら、メダルをもらえなかったチューイに同情するところまで見届けていた。 
つまり、最後まで夢中で観ていた。 完全に虜だった。 
でっかいのやらちっさいのやら見たことのない形をした様々な宇宙船の、かっこいいダース・ベイダーの、ワイルドなソロの、毛むくじゃらのチューイの、ブラスターを打ちまくるプリンセス・レイアの、甘いマスクのルークの虜だった。
その日から30数年ののち、ついに迎えた「すきだったみんな」とのお別れの瞬間。
レイアの息子を想う気持ちに、ソロの温かさに、ルークの潔さに、迷走している孫は全スルーでジェダイの新弟子にだけエールを送りに来たアナキンのあいかわらずなスットコドッコイさ加減に、やっとメダルをもらえたチューイに、廃船になることなく最後まで駆け抜けたファルコン号に、やるべきことをやり遂げた宇宙のみんなが安堵の涙と抱擁を交わしあうスクリーンに、わたしは泣きました。

映画としてダメなところはいっぱいあります。
正直、設定はガバガバだし謎理論だらけだし畳み方強引だし、名作映画だったかと言われれば全くそうではない。
でも、名作ではないけど、わたしにとってはとてもすばらしい映画だった。
まだまだこの宇宙に浸っていたいと感じさせてくれて、でもお別れも(惜しむ気持ちはありつつも)きちんと受け入れることができて、『スター・ウォーズ』を観てきてよかったなぁ、と思わせてくれてありがとう。

スター・ウォーズさいこうだぜ!



- おまけ -

・ とまあね、色々書きましたけど、一番自分がチョロかったのはカイロ・レンによるところが大きいんですよね! っていうか『スカイウォーカーの夜明け』は実質カイロ・レン祭り! いやちがう!アダム・ドライバー祭りなのだ!!!

・ ヘタレだのキャラがブレブレだの悪しざまに評されることの多かったカイロ・レン(以下レンくん)。 しかし、思い返してください。 レンくんことベン・ソロくんは、宇宙いちとの呼び声高いパイロットであり英雄の父をもち、オルデラン星の王女にして元老院議員・現レジスタンス将軍を母にもち、伝説のジェダイ騎士ルーク・スカイウォーカーを伯父に持つというプレッシャーの権現みたいな環境に生まれてしまったんですよ。 で、生まれた時から強いフォースを目覚めさせたせいで、「こいつはイケる」とばかりに親元から離されジェダイの修行を余儀なくされ、その潜在能力ゆえにパルパティーンから目をつけられ、勝手に危惧した伯父さんから殺されかけ、その恐怖と失望と絶望から闇落ちするしかなかったかわいそうな子どもなんですよ。 

・ 家族の期待を裏切った罪悪感から、ずっと「もう引き返せない。とことん堕ちるしかない」と自己暗示をかけてきたであろうレンくん。 そう、自己暗示なんです。 「今さら家族のもとには戻れない」という呪い。 本当は家族が自分を愛してくれていたこともわかっているし、いつだって迎えてくれることもわかっている。 でも、耳元で囁くパルパティーン(ベイダー卿)の「お前は愛されていない」というネガティブな言葉の方が受け入れやすかった。 「世の中を呪え、おまえを受け入れてくれない世の中を呪え、すべて壊してしまえ」という甘い誘いの方が心地よかった。 

・ こういうの、別にレンくんだけじゃないんじゃないでしょうか。 多くの人が、ポジティブな声よりもネガティブな声の方にとらわれやすいんじゃないかと思いますし、のぼるよりもおちる方が容易いんですよ。 もちろん、だからこそ踏ん張らないといけないけれど、踏ん張るためには支えがなければ難しい。

・ 父ハン・ソロは現実逃避し、母レイアはレジスタンス活動に没頭し、伯父ルークは行方不明ということで、踏ん張るための支えを得られなかった子どもは、ベン・ソロを殺しカイロ・レンとして生きることを選んだ。 黒づくめのマスクは、彼がベン・ソロを弔うための衣装だったのかもしれない。 だから、対等な力をもち、親にすがりたくてもすがれないという過去をもち、自分と同じ孤独を知っているレイと出会い、同じでありながら希望を捨てない彼女と接するうちに、レンくんがマスクを被る機会は減っていった。 

・ レイも、レンくんの中に自分と同じものを感じていたからこそ、レンくんの悲しみや絶望を知ることができたし、なんとかして救ってあげたかったんじゃないでしょうか。 放っておけなかったんじゃないでしょうか。 もうね、愛ですよ。 誰がなんといおうと愛ですよ。 正反対の場所にいながらも、無視できないほどの共通点を持ち、本気でぶつかり合うごとに惹かれてゆく。 なんだおいコレたまんねえな!!!

・ ほんとフィンくんには申し訳ないけど、わたしは「敵同士だけどかけがえのない相手」みたいなアレが大好物なのでね! すみませんね! まあほら、フィンくんはフィンくんで前回から引き続きモテまくってたし、レイとポーとの友情は不滅だし、ゆるしてくんろ!!

・ レンくんの話に戻りますけど、そういうレンくんの(ブレたりレイちゃんと惹かれあったりといった)言動のすべてに謎の説得力を与えるアダム・ドライバーさんの超絶演技力よ! 前作の感想にもしつこいぐらい書いたので、今回はほどほどにしたいんですけど、抑えきれないこの気持ち!! 

・ レイちゃんに会ったことで「本当はカイロ・レンを捨てたい、家族のもとに戻りたい」という気持ちがどんどん高まってゆくレンくんの、だけれどそうするにはあまりに多くの命を奪ってきてしまったという苦しみを、最小限の演技でこんなに表現してしまうのかアダム・ドライバーさん! あと、普通にかっこよすぎじゃないのかアダム・ドライバーさん! っていうか、かっこいいを通り越してかわいさが有り余ってないかアダム・ドライバーさん!!!

・ EP7でレイちゃんに惹かれ、EP8でレイちゃんを本格ストーキングし始め、今回EP9ではつきまとっていることを堂々宣言。 「君の行くところは見つけにくいなぁ」とか「でも絶対見つけるから」とか言っちゃうんですよ、本人目の前にして! おまえ・・それアダム・ドライバーじゃなかったら絶対ゆるされてないからな・・・!

・ しょうがない! 恋人のいるいない以前に恋したことすらなかったんだから、距離感つかめないのしょうがない! 好きな人の前でテンパって言わなくていいことまで言っちゃうこと、みなさんにもあるでしょう!わたしにはあります!(※ 憧れの佐野史郎さんを前にした時、勢い余って「佐野さんに会いたくて吉祥寺をグルグル歩いてました」と堂々ストーカー宣言した過去有り)(※ 佐野さんは吉祥寺在住)

・ 黒装束を脱ぎ捨て、ざっくりニットでレイちゃんのピンチに駆けつけるレンくんのかっこよさが限界を突破!レンくんの普段着さいこうだぜ!もっとくれ!そういうのもっとくれ!!!

・ レンくんとレイちゃんの接吻シーン、わたしはありだと思います。 というか、後半まあまあな熱量で「接吻せえ!さっさと接吻してくれ!」と思ってました。 そりゃするわ!すきなもん同士、あの流れだったらするわ! 高まる~!!!!

・ ほんでレンくん、はじめて笑顔をみせるんですよね・・・ いつから笑っていなかったんだろう・・ もしかしたらジェダイの訓練を初めて以来はじめて笑ったのかもしれないなぁと思っただけで涙腺ゆるむのなんのって。 

・ あと、これは後世まで語り継いで行きたいんですけど、レン騎士団に囲まれたレンくんがレイからライトセーバーを受け取って、「・・・ね!」みたいに肩をすくめるシーンのかわいさ、あんなかわいい仕草がこの世にあるでしょうか??? おい世界遺産選定委員会のえらいひと仕事しろよ! これ世界遺産レベルだろ!  あまりの尊さに、劇場に居ながらにして天を仰いで両手を広げたまま昇天しそうになったわたしです。 むしろ、あの仕草を観るためだけに劇場に日参したい。 思い出しただけで泡吹いて倒れそうです。

・ わたしは本作品の評価を5億点とつけているのですが、あのシーンだけで3億点はかたいですね。 あとの2億点はラストに登場した毛玉ちゃんです。
イウォーク顔
(※ たべちゃうぞ!)

・ 自分がここまでカイロ・レン推しになろうとは、EP7の時点で想像だにしなかったのですが、今では立派な強火担です。 寝ても覚めてもカイロ・レン。 人気がなさ過ぎて投げ売り状態だったレンくんのフィギュアーツを購入していた自分を、今日ほどほめちぎりたい日はない・・・! レンくんの話をさせたら5時間ぶっとおしでイケる自信あります。やめろと言われるまでやります。やりましょうか?今からやりましょうか???(やらない)

・ それもこれも、レンくんを演じたのがアダム・ドライバーさんだったからこそ。 レイちゃんが意気投合しちゃったのも、だいすきなハン・ソロを殺したにも関わらず「しゃーないよね・・・」と一定の理解を抱いてしまったのも、むちむちの上半身で挑むビデオチャット(通信手段・フォース)に爆笑どころかキュンキュンしちゃったのも、みーんなアダム・ドライバーさんの魅力が為せる業だったのです。

・ 結論:アダム・ドライバーは存在が罪

・ ポー・ダメロンとはなんだったのか。

・ 腕はすごいし勇気も度胸もあるけど、人の話をきかない独善的なところのあるポーが、レイアに気に入られていたという理由だけで次期将軍に任命されるシステムの謎を解くため、われわれは未知領域の奥地へと向かった・・・!

・ 話をきかないといえば、ポーとフィンが人の話を聞かなさ過ぎてちょいちょいイヤになっちゃいましたね。 話しかけてくるのがレイ以外だった時に「あとでー!」ってシャットアウトしちゃうの、人としてどうなの? 大切なことをまっさきに伝えようとしたダーシー中佐、気の毒じゃね? 

・ あと、C-3POへの当たりが非常にキツイ。 もともとC-3POはそういう(空気を読まないおしゃべりを周りに注意される)役どころではあったけれど、もうちょっといたわりあうシーンが欲しかったです。 邪険にされ続けたC-3POが記憶を消される直前にポーたちを見つめた時でさえ、「なに見てんだよ」って言ってましたからね。 それを受けて「最後にもういちど友の顔を・・」って答えるC-3POの気持ち考えてみなさいよ。 ルークやソロたちとの間にあったような絆がなかった以上、ああいう感傷的なシーンを入れることの方が間違いだったとは思いますが、ほんとつらかった。

・ フィンはポーよりはマシな描写でした。(もちろん充分ではないけれど) フォースを持っていることもきちんと描かれていたし、なにかと「所詮血統主義かよ」と言われがちな『スカイウォーカーの夜明け』において、「だけじゃない」を伝えてくれたことがうれしかったです。

・ もともとわたしは、フォースとは「あらゆるところに存在しているもの」であり、遺伝もあれば突然発生もあるという認識でいたので、前作に出てきた奴隷の少年ブラッグくんもフィンもそれ以外にも、宇宙中にフォースを操れる者は少なからずいて、レイとレンくんはあくまでその中の一部だと思っているのですよね。 その割にはあのふたりが強すぎるじゃねえか!って? しょうがないじゃない!主役なんだから!!!(※ 身も蓋もない発言)

・ あまりすきになれないEP8の中でとても気に入っていたブラッグくんのラストシーンが全く活かされなかったのが、返す返すも残念ですね。 フィン以外にもフォースを感じさせるキャラクターいてよかったのになぁ。

・ で、「血統主義」と書いたので、ついでにその話も。

・ わたしは、レイが「スカイウォーカー」を名乗ったラストシーンに納得しています。 それは、パルパティーンという大物の孫が同じくスカイウォーカーという超大物の屋号を乗っ取ったのではなく、レンくんと結ばれてスカイウォーカー家に嫁入りしたのでもないと思っているからです。 

・ 死ぬほどのダメージを負ったレイを助けるため、自分の命を分け与えたレンくん。 これは臓器移植のようなものだと思うのですよね。 大切な人に生きてもらうための、命のリレー。 レイの中にはレンくんも存在している。 ふたりでひとつのジェダイ・ナイトになった。 だからレンくんは全て与えたあとジェダイとして消えた、消えることがゆるされたのではないでしょうか。

・ もうひとつレイの中に継承されたもの、それはルークとレイアの魂でもあります。 ほとんどやさぐれていただけのルークはさておき、宿敵パルパティーンの孫であることを知った上で、レイの資質を信じ、ジェダイとしての訓練を施していたレイア。 その気高さ、やさしさ、勇敢さはレイの中に確実に生きている。 わたしは、レイがタトゥイーンのラーズ家前で、ルークとレイアというふたりのマスターに見守られながら「スカイウォーカー」を名乗るシーンに涙が止まらなかったし、あえて大きな責任(スカイウォーカー)を背負うという困難な道を選んだレイを応援したいと思った。  あのシーンはレイの覚悟であり、レイがみんなの想いを受け入れた、とても美しい瞬間でした。 そして、せつないシーンでもありました。

・ あとね、レンくんが消えたと同時にレイアも消えたのもグッときましたよね。 レイアは自分のフォースをレンくんに送っていたんですよね。 エクセゴルでのパルパティーンとの闘いで、命をあらかた吸い取られ崖の下に放り込まれたレンくんが這い上がれたのは、レイアの支えがあったからなんですよ。 レイアもまた、レンくんと共にパルパティーンと闘っていたんですよ。 まぁね・・ 欲を言えば、もうちょっと(レンくんがあそこまでこじらせるよりも)早くフォースを送ってほしかった気もしますけどね・・・ ルークがしくじった頃にでもね・・・

・ レンくんの応援がレイアなら、レイちゃんのバックについているのはそう、ジェダイOB会のみなさんです。 

・ 若者のエキスをたらふく吸い込んで調子に乗ってるパルパティーンと、精根尽き果てそうなレイちゃん。 そこに駆けつけた歴代のジェダイ・マスターたち。 こういうイベントが大好物であろう緑のおじいちゃんはもちろんのこと、ジェダイ評議会のみなさんももれなく大集合。 クワイ=ガンもメイス・ウィンドウもアソーカもいたし、オビ=ワンなんかアレック・ギネスさんとユアン・マクレガーさん両方の声で話しかけてくるサービス過多っぷり。 どういうシステムやねん。 

・ 聞き覚えのある声たちが、よってたかってレイちゃんに「がんばれがんばれ」の大合唱です。 いやぁ、あがった!深作欣二監督版『里見八犬伝』のラストで、亡くなった七犬士が「行け!親兵衛!!行け!行け!!」って声援おくるシーンなみにあがるシーンでしたね!

・ だがアナキン、おまえはダメだ。(声援おくる相手ちゃうやろ)

・ それにしても、ベイダー卿にビリビリ跳ね返されて落下したはずのパルパティーン、誰が拾ってたんだろな。 あと、シス後援会のメンバー多すぎ。 30年そこそこでスター・デストロイヤー作りすぎ。 生産体制しっかりしすぎ。 工場どこやねん。 

・ なんかアレですな、エクセゴルのシス神殿にずらっと揃った後援会会員、『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』に出てくる死者の軍勢みたいでしたな。 骸骨ゴロゴロ出てこないのかな。

・ あと、援軍が来なくてレジスタンス壊滅寸前になり、ポー・ダメロンが本当の意味でダメロンになりかけた時、ランド・カルリジアンがヒャッハーしにくるの、めちゃくちゃ『アベンジャーズ/エンドゲーム』でしたね。 左から失礼!!

・ で、その声と共に宇宙を埋め尽くさんばかりに現れる名もなきヒーローたち! なにこれ。 どこのアベンジャーズ? ミラノ号も混じってたりするの?

・ ついでにいうと、パルパティーンが「わたしがシスのすべてだ」ってドヤるのを受けて、レイが「わたしはジェダイのすべてだ」と応えるのも「アイアム アイアンマン」みたいでしたね。 ディズニー節操ねえな!おい!!

・ 続三部作が作られ始めて5年間、わたしを取り巻く環境もいろいろと変わり、最初は拒絶しかなかったハン・ソロの死も、ルークの犠牲も、素直に受け入れられるようになりました。 大人はいつか、子どもよりも先にいく。 いきたくなくてもいく。 でも、それは仕方のないことだし、そうでなければならないことでもある。 大人が思っている以上に子どもは成長してくれるもので、先導していたつもりの大人は並走になり、いずれは見守るだけの存在になるべきなのだろう、と、ルークとレイアの姿を観ながらぼんやり考えました。 自分が何者かわからずただ可能性だけを武器に世界へと踏み出し、責任を負うことで失敗や苦しみや喜びを知り、そんな経験を次世代の子どもたちへ伝え、勇気をもって送り出す。 ルークたちの冒険は、わたしの冒険でもあったのです。

・ 長い旅を終えひとつの役目を終えたわたしの前には、またふたたび新たな旅へ続く道がひらけている。 今度はどんな冒険がまっているのか。 故郷を知らないジャナのような子どもたちが、希望をもって「ホーム」を見つける物語なのだろうか。

不安に負けず進んでほしい。 不安に負けず進みたい。 わたしのそばにいる彼らも、子どもたちのそばにいるわたしも消えることはないから。 

ありがとう、スター・ウォーズ。

フォースはわたしたちと共にある。 どんな時も。




過去の感想
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(エピソード7)
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(エピソード8)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(エピソード4の前に起きていたこと)


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『ジオストーム』

2018年01月27日
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あらすじ・・・
2019年、異常気象による大規模災害に悩まされていた人類は、ついに肌の色や宗教の違いなどを乗り越え、あるひとつの解決策を選択すべく一致団結した。
その策とは、気象を管理できる衛星をわんさか設置してお天気を操ろうというもの。
自然の摂理は神のみぞ知るものだが、人間が作ったものなら人間によってコントロールできる。
これでもう、悪天候に振り回されることはない。
だが、人類は忘れていた。
機械がどれだけ完璧であろうとも、それを操る人間は、決して完璧などではないということを・・・。




※ 以下あたりまえのようにネタバレしています


めんどくさいやりとり一切抜きで、さっさと宇宙にいくアルマゲドンが観てみたくないか!
感動はしたいけど、ブルース・ウィリスも帰ってくるアルマゲドンが観てみたくないか!
そんな全世界のほしがり屋さんたちよ、括目せよ!

これ
(ジオストーム)が答えだ!!!


・ というわけで、「死なないアルマゲドン」こと『ジオストーム』を観てきましたよ! 死ななかったよ!父ちゃん無視のイチャイチャもないよ!いやぁ、じつに気分がいいですね!

・ アルマゲドンも相当バカな映画でしたが、本作はさらに輪をかけたバカっぷりで、全編通して「そうじゃねえだろ」のつるべうち。

・ まず、現実の世界で起きているような異常気象がさらに大規模になったような世紀末映像が紹介されます。 あちこちで起きる大洪水に大干ばつ。 スペインでは熱波で一日に200万人もの死者がでる事態。 環境破壊を見て見ぬふりしてきた代償がこれなのか。 あながち絵空事ではない大災害に、心がざわめきます。 さすがにヤバい。 そろそろ本気ださないと、人類ヤバい。

・ そこで本気だした人類は、話し合いの結果気象コントロール衛星の製作に着手するというね。 おい!そうじゃねえだろ!

・ 環境破壊が原因なのに、そっちはめんどくさそうだから天気だけいじっちゃおうぜっていうノリはなんなんだ。 その場しのぎで根本的な解決をはかる気ゼロな感じはなんなんだ。 バカなのか。 全員バカなのか。

・ またその、世界17か国共同で作ったという衛星ネットワークがすごいし、国際宇宙ステーションの規模もものすげえんですよね。 地球のまわりを覆うように張り巡らされた数千もの衛星からなる網。 何年かければこんな巨大なシステムが完成できるというのか。 まさか1・2年で作ったとか言うんじゃないだろうな。 っていうか、そんなもん作れるぐらい一致団結できるんなら、環境問題に取り組む方がよくないか。 労力をそそぐところ、間違っていませんか。

・ 豪快すぎる現実逃避の末、気象をコントロールする時代に突入した人類。 ネットワークを構築した立役者がアメリカンだったため、管理もアメリカ主導で行われていましたが、軌道に乗ってきた3年後をめどに、主導権は国連に移されることに。

・ ところがあと2週間で管理権移行というところで、突然衛星が不可思議な暴走をはじめ、世界各地で異常気象が勃発。 事態の収拾をはかるべく、システム開発の責任者ジェラルド・バトラーさんが宇宙へ駆り出されるという運びとなるわけです。

・ 映画開始早々、気象コントロールシステムの責任者になって、システムの責任者クビになって、もういっかいシステムを熟知している者として宇宙に送り出されるジェラルドさんのこのスピード感ね! まわりくどいこと一切なしですよ! 「えらい人→ただのおじさん→えらい人→宇宙!」、その間わずか30分! ゴネない酔わない打合せしない!

・ いざ宇宙行く時も、発射台にピャーっと行って、スペースシャトルにピャーっと乗ったらもう国際宇宙ステーションですからね。 スープカレー食べたくなっちゃったから北海道行ってくるわ、ぐらいな気軽さで宇宙に行ける男、それがジェラルドさん。

・ で、てっきり宇宙ステーションに着いたジェラルドさんが(主に拳による)トラブル解決を始めると思うじゃないですか。 悪巧みをしているテロリストを、ひとりボコりふたりボコり全員まとめて宇宙送りにするのだと。 ところが、待てど暮らせどボコらないんですよ。 なんとジェラルドさん、拳ではなく頭脳を使うんです・・・!

・ そりゃそうですよね! ジェラルドさんは傭兵でもSPでもなく、技術者として宇宙に行ったのですから! てなわけで、宇宙ステーションを「おっかしいな~」とつぶやきながら徘徊するジェラルドさんに代わり地球で体を張るのは、ジェラルドさんをクビにした張本人である弟と、その婚約者である大統領のシークレットサービス。 いいのか! ジェラルドさんはそれでいいのか! だいじな大統領を他人任せにしておいていいのか!

・ ここね、ジェラルドさんのひとり舞台だと思いきや、互いに似た性格で同じ職種だったからこそ長年ギクシャクしてきた弟さんにも、充分な見せ場が設けられていたところがすごくよかったんですよね。 早くに両親を亡くした兄弟が、それぞれに抱いていた不満や尊敬や愛情。 地球の危機に絡めてこの兄弟の絆の修復もサクッと描いてしまうこの手腕。 なんとも鮮やかじゃないですか。

・ おまけに、弟さんとその婚約者のロマンスまで盛り込み、しかもきちんと成立させているのですからホントすばらしいですよね。 ちなみに、アクションシーンで一番気を吐いていたの、婚約者ですからね。 結婚よりも仕事を優先するぐらい忠誠心の塊だった彼女が、「国務長官が大統領を亡き者にするため衛星をハッキングしたんだ!」という無茶苦茶な情報を「オレがそう言ってるんだから信じるよね?!」と恋人に言われた瞬間「オッケーわかった」と鵜呑みにして、なんの迷いもなく大統領を拉致するというこのバカさ加減! 物わかりのよさに定評がありすぎるだろ! 素直か!

・ もちろん、宇宙のジェラルドさんもただウロウロしているわけではありませんよ! 地球での真犯人探しが進まないことに業を煮やしたのか、アクションしなけりゃ意味がないと思ったのか、徐々に本領を発揮し始めますからどうぞご安心を。 コンピューターウィルスによって暴走した衛星システムが地上に異常気象アタックをお見舞いし始めると、その衛星にスペアの衛星をぶつけてぶっ壊す作戦を指示したり、内部で悪いやつの手助けをしていたチンピラに鉄拳制裁したりと、いつもの物理攻撃方向へ華麗に転換するジェラルドさん! ですよねー! やっぱそうですよねー!!

・ 宇宙でなにをどれだけ壊そうと、どうせ全部スペースデブリになるだけなんだからいいっしょ? といわんばかりの思い切りの良い崩壊シーンも見ごたえばっちり。 国際宇宙ステーションに駐在していた世界各国の技術者は、みんなスペースシャトルで脱出できるので犠牲もゼロなんだそうですよ。 やさしい世界ですね。 

・ 一方、地上の生き物には全くやさしくないという、この徹底したアンバンランスさ。 マグマが噴き上がった香港とか、スーパー冷気に襲われたアフガニスタンとかリオ・デ・ジャネイロとか、大津波に襲われたドバイとか、大竜巻に飲み込まれたムンバイとか、雹が降り注いだ東京とか、めっちゃ雷落ちてたオーランドとか、気象関係なくふつうにレーザービームで攻撃されていたロシアとか、小学校の学期末ごろの雑巾かというぐらい雑に扱われていましたが、それでいいんですよ。 火事と地球崩壊は江戸の花だ、と生前わたしのおじいちゃんもよく言っていたものです。 まぁ、おじいちゃん、生まれも育ちも岡山なんですけどね。

・ ストーリーをまとめたくなったら自爆装置を出せ、といういにしえより伝えられし習わしに従いカウントダウンを始める国際宇宙ステーション。 アメリカの大事なことは全部大統領に丸投げしとけ、という先人の知恵を活かしたご都合設定により、すべての全権を委ねられるアンディ・ガルシアさん。 宇宙ステーションが自爆するのが先か、衛星による地球破壊が先か、大統領がコンピューターの解除をするのが先か。 一刻を争う状況の中、一刻を争っているとは思えないほど進んだり進まなかったりする時間軸に沿って繰り広げられる、人類の生き残りをかけた闘い。 ノルもノラないもあなた次第。 この潔さが、実にいい。 

・ でね、すんでのところで地球が助かるのは最初からわかっているからいいとして、注目すべきは真犯人の動機じゃないですか。 せっかく作った衛星システムにウィルスを仕込んで、危うく人類滅亡させかけたアメリカ合衆国国務長官ことエド・ハリスさん。 一体なにが目的だったのでしょうか。 

・ 実はエド・ハリスさん、アンディ・ガルシアさんを亡き者にして、自分が大統領になろうともくろんでいたんですね。 気象衛星に攻撃させていたのは自分にとって邪魔な国と地域で、それらを一掃した後その罪を大統領に着せた上で異常気象に襲わせ、まんまと後釜に座ってやろうと。 でもね、エドさんってば、アンディ・ガルシアさんごと始末しようとしていたんですよね。 ガルシアさんが死んでたら衛星の暴走は止められなかったし、そしたらうっかり自分も滅亡の危機だったわけですよ。 かろうじてガルシアさんの生体組織を使って衛星を止めたとしても、そこまでのジオストームで地球半壊だし、宇宙ステーションもほぼ全壊だし、そんな状態で大統領になってなにがたのしいのか全くわからない。 火中の栗拾うどころのレベルじゃねえぞ。 Mなのか。 エドさんは自分をとことん追い込みたいタイプのアレなのか。

・ だいたいね、コンピューターウィルスは大統領でなくても(えらい人なら)誰でも仕込めるのに、それを初期化できるのは大統領の生体認証のみってどういうシステムやねん。 大統領が原型を留めたまま死ぬ可能性以外受けつけないシステムなんやねん。 誰やねん考えたの。 

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(※ 考えた人・・・ディーン・デブリンさん/代表作・・・『インデペンデンス・デイ』『GODZILLA』)

・ そっか、じゃあしょうがないか!

・ ジェラルドさんの奮闘、弟さんの健闘、婚約者さんの激闘により回避された人類の危機。 しかし、ジオストームこそ免れたものの、気象をコントロールしていた衛星システムはすべて破壊され、立て続けに起きた大災害で世界の大都市はボロボロです。 岐路に立たされた人類。 さあ、どうする。 この非常事態にどう立ち向かう。 

・ そして世界は再び、肌の色や宗教の違いなどを乗り越え、あるひとつの解決策を選択すべく一致団結しました。 その策とは、気象を管理できるもっとすごい衛星をわんさか設置して今度こそきっちりお天気を操ろうというもの。

・ そうそう、次はね、ウィルス仕込まれないようしっかり気をつけてね、初期化の必要があったときすぐできるように、パスワードをジェラルドさんの生年月日かなんかにしといてね、 っ て そ う じ ゃ ね え だ ろ ! !

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(※ 劇中これみよがしに電気自動車が出てきたので、いちおう環境にも配慮した世界になっているんですよ、ということなのかもしれない)

・ というか、権力欲にとりつかれたひとりのアホなアメリカ人がしでかしたせいで、こんがり焼かれたロシアとかバッキバキに凍らされたリオとかその他もろもろの国とか、よく許してくれたなぁと思いますよね。 うそやろ?ってなりますよね。 国務長官が?マジで?おまえんとこの国どうなってんの?って国連で吊し上げ必至じゃないんですか。 やさしい世界ですね・・・。

・ ということで、真面目に環境破壊を問題視している感は醸しつつ、その実とことん不真面目で不謹慎なバカ騒ぎが続く本作。 ノレない人は本気で腹が立つかもしれませんが、「地球が派手にぶっこわれる映画サイコウだぜー!FOOO!」というわたしのような人間にはたまらない娯楽作でした。 必要なものはすべてあって、なくてもなんとかなるものはなにもない。 なんつうか、改めて「観たかったものがきちんと描かれている」ことって当たり前にみえるけどとても大切なことなんだなぁ、と思いました。 センキュー!デブリン監督! 今後もコンスタントにこういうやつおねがいします!

・ 最後になりましたが、本作は子役がめちゃくちゃすばらしかったということもお伝えしておきたいと思います! ジェラルドさんの娘さんを演じていたタリタ・ベイトマンさん、ホントにうまい! バカの詰め合わせみたいな作品(※ほめ言葉)なのに、気づいたらはんなりと感動してしまっていたのは、主にタリタさんの演技力のおかげです!

・ あと、「ジェラルドさん、どっこい生きてたわ」のシーンで、ビックリしたのと嬉しいのとで目をまんまるにしていた弟さんがめちゃかわいかったこともご報告させていただきます。 頭に手を乗せて口ぽかーんって開けてるんですけど、冗談かっていうぐらいかわいかったです。 あのシーン切り抜いて下敷きに入れたい。

・ みなさんもキリキリとした生活のちょっとした息抜きに『ジオストーム』いかがでしょうか。




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『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

2017年12月27日
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あらすじ・・・
宇宙の片隅で隠遁生活を送っていたルークの居場所がついにレイアにバレます。



以下、ネタバレしていますので、ご鑑賞後の方か、未鑑賞だけどあんまそういうの気にならないからバレててもいいよという方のみ、このままお進みください。
あと、流れ弾的に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』のネタバレにも触れてしまっていますが、ホントすみません。




おもえば、イヤな予感は前作『フォースの覚醒』の時点で既にありました。
10年ぶりに再開されたスター・ウォーズ・サーガ。
原点のひとまずの終結といえるエピソード6の続きがついに観られる、しかもお馴染みの面々の続投も無事に決定。
いやがうえにも高まっていたファンの期待。
興奮と緊張のあまり自律神経を崩しつつ向かった映画館で私が目にしたのは、相棒チューバッカの前で無残に殺されるハン・ソロの姿でした。
ハンにライトセーバーを突き立てたのは、他ならぬ彼とレイア姫の息子であるカイロ・レン。
驚きと悲しみに押しつぶされそうになったわたしでしたが、愛され続けてきたキャラクターを殺す、という思い切った選択は、新たな神話の始まりに際しての製作者の決意のあらわれなのだろうと自分に言い聞かせ、『フォースの覚醒』の誕生を祝福したのでした。
しかし、時間が経つにつれ、本当にあの選択は間違っていなかったのか? という気持ちがわたしの中にチラつき始めました。
ハンの退場だけではなく、あんなにかけがえのない存在だった相棒をうしなったはずのチューイが、やけにあっさりレイのお供の座に収まっていたのも不安要素のひとつだったのかもしれません。
本当にハンを殺してしまう必要はあったのか?
JJの野郎、取り返しのつかないことをしでかしてくれたんじゃなかろうか? と。
イヤな予感がする。
なんだかとてもイヤな予感がするぜ。

そして迎えたエピソード8。
二年前ほどではないものの、緊張で指先をキンキンに凍らせながら挑んだ『最後のジェダイ』。
わたしの目に映ったのは、隠遁島から一歩も出ることなく命の最後を迎えた、ルーク・スカイウォーカーの姿だったのでした。

いや、わかるんですよ!
今回の新シリーズ、テーマは「古いものを壊す」なんですよね!
これからもずっと、「遠い昔、はるか彼方の銀河系で」繰り広げられた物語を続けてゆくというディズニーの、固い決意! 
ディズニー・リゾートの方とも連動して半永久的なアレをやっていくぞ、という強い気持ち! くいっぱぐれないぞ、という! おまえをぜったいに手放さないぞ、という! そのために新キャラを投入し定着させて、新規ファンも取り込んでいくぞ、と!
まぁ、そういったいやらしい話は抜きにしても、とにかく偉大すぎるオリジナル・シリーズを超え、肩を並べるためには、昔からのファンへのくすぐりに傾注していてはいけないのだと、そう判断したのでしょう! わかる!
オリジナル・シリーズからの決別、そしてフレッシュな面々や名もなき面々による再構築、それこそが新時代のスター・ウォーズなのだ・・・!
思い切っていいますけど、そ ん な こ と 誰 が 頼 ん だ ん だ よ !


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(※気分的にはこんな感じ)


もうね、いいです! 
懐古厨と罵られてもいい、老害と蔑まれてけっこう!
わたしは、わたしはね、いろいろつらいことがあって一度はフォースを拒絶したルークが、レイの驚くべき才能と熱い正義心にうたれ、あの美しい孤島でベスト・キッドか酔拳かっていうような訓練を施すシーンが観てみたかった! 
そうしているうちに、自らもジェダイ騎士としてなさねばならないことに向き合おうという気持ちになってゆくトコロが観てみたかった!
ハンが老境パイロットとして、ますますお盛んにミレニアム・ファルコン号を飛ばすトコロが観てみたかった!
欲をいえば、レイア姫がフォースを操るトコロも観てみたかったんですよ!

オーケーオーケー、ちょっと落ち着こう。
たしかにルークは最終的に、最後のジェダイ騎士として持ちうる力のすべてを出し切り、最高すぎる闘いを魅せてくれました。
これぞジェダイ・マスター、というシビレるような格闘。 
でも、肝心のレイがそれ見てないから! 
カイロ・レンにもなんか伝わってる風なトコ、なかったから! 
捨て身の授業なのに誰にも届いてない! 
受け取ったの映画館に来てたお客さんとファースト・オーダーのみんなだけ! もってえねえなおい!

たしかにハンも、『フォースの覚醒』でミレニアム・ファルコン号に戻ってきましたよ。 
今となっては長すぎる死亡フラグにしか思えない見せ場もたくさん与えられていましたけど、だからって殺されてもなぁってぼかぁ思いますよ! だったら見せ場少なめで死なない方がいい!
たしかにレイア姫もフォースを使っていましたけど、ちがうちがう、そうじゃない! やってほしかったのソレじゃない感がすごい!
っていうか、今年一番ソレ見たかったの、ヨンドゥです! あーあー!ヨンドゥの世界にもフォースあればよかったのになぁ!

水平線に沈む大きな二つの太陽。 
それを眺めていたルークの身体がやわらかくかすんで消えてゆく。
主をうしなったローブはふわりと空に舞い上がる。
わたしの頬をとめどなくつたう涙は、「もうルークに会えることはないのだ」という深い喪失感による涙でした。
やっと会えたのに、もう会えない。
待ちに待ってスクリーンに帰ってきた前作、ルークの出番はエンディングタイトル前の1分弱。 セリフはありませんでした。
すべてはこのエピソード8に。 
そう思っていたのに、これからレイの師匠として、今までのポンコツマスターたちとはひとあじ違う教えを授けてくれると思っていたのに、ほとんど教えてあげられないまま逝ってしまった。
クレイトでの闘いで、レンにジェダイの底力というか格の違いを見せつけたあと、「また会おう」って言ったじゃないですか。
今回のはあくまで第一回戦なんじゃないですか。
次回、今度は実体でレンとレイとルークがあいまみえるんじゃないんですか。
こんなことになっちゃったら、次出てくるとしても半分すけすけの霊体だし、ジェダイ・マスターって霊体になったら責任感から解き放たれたからなのかなんなのか、じゃっかん適当ぶっこむ傾向、あるんですよね。 頼りになりそうで、ならない。 おい、聞いてるのかそこの緑の、おまえのことだぞ。

もっといろいろ話してほしかった。 失敗も成功も迷いも確信もぜんぶ伝えてほしかった。
本編の大半が「帰れ!」「島から出ていけ!」の一点張りで、やっと何があったのかを話初めたら今度はレイが「あー、なんかもうレンと直接話すからええですわ」っていなくなっちゃうって、どうなんですか。
クワイ=ガン・ジンがオビ=ワンに見せたように、オビ=ワンがルークに見せたように、ルークがジェダイとしての在り方、闘い方をレイに示すシーンがなぜなかったのか。(レイが見ていない間にあったのか)
それとも、レイはフォースのアンテナがバリ3だから、ルークとレンのクレイトでの一部始終を全部受信できていたというのか。
まあね! 遠距離でもレイとビデオチャットできちゃいますもんね! 通信状態めちゃ良好ですもんね!


ここまで長々とおつきあいいただき、ありがとうございます。
読み進めて下さったかたは、そろそろ「わかったわかった、おまえは最後のジェダイ否定派なのだな」と判断されている頃だと思います。
ところがどっこい、わたし『最後のジェダイ』めちゃくちゃすきなんですよね!


これまで述べたように、「うそやろ・・」という展開はてんこ盛りでした。
「またもや取り返しのつかないことを・・・」という歯がゆさも感じました。
「なんで年寄り(わたし)をここまでいたぶるんや・・・」というやるせなさもありました。
でも、そういった気持ちとほぼ同量の、「最後のジェダイさいこうやんけワレ!!!」という興奮もあったのですよね!

鑑賞後、いろいろな人から「最後のジェダイどうだった?」と感想を求められたのですが、そのたびにわたしの心は「一言でいえるかっつうの!!!」という葛藤に襲われ、悩んだ挙句「いいところもショックなところもありましたけど、おおまかにいうとよかったです」と答えるのが精いっぱいでした。

「さいこー!」と「なんつうことをしてくれたんや」の間にあるもの、それがわたし。
いうなれば、わたしはフォースなのです。 
ホウキは無理ですが、掃除機ぐらいならいつでも自由に操ってしんぜましょう。 いでよ、ルンバ!
(スン…) 
・・・みてください、これがフォースの力です・・・!
(※混乱しています)

たとえば、師弟としてのやりとりには大いに不満があるものの、ルークがフォースを閉じ、ジェダイは滅んだ方がいいという考えに至っていたという点には、わたしはとても納得しています。

『ジェダイの帰還』で父・ベイダー卿と和解し、帝国軍も倒したルークはジェダイ・マスターとして民衆の尊敬を集めていた。
妹レイアとハンの間に生まれたベン・ソロ。
まばゆすぎるほどのフォースを持つベンを、いっちょ自分の後継者として育ててやろうと思ったルーク。
どうせだったらと可能性のありそうな子どもたちを集めて、ジェダイ寺院を設立するも、修行を施せば施すほど、日に日に甥っ子の心は闇で満たされてゆき、ついには先々とんでもない悪鬼になるであろう未来を感じ取ってしまった。
以前、「もしもタイムマシンで過去に戻ることはでき、ヒトラーの子ども時代に出会ったら、あなたは彼を殺しますか?」というアンケートが世間をにぎわせたことがありました。
ルークはまさに、この問題に直面してしまった。 しかし、ソースは自分の直観力のみ。 しかも相手は愛する妹の子ども。
一瞬の逡巡ののち、怒涛のように押し寄せる後悔。

この瞬間、ルークは「誰もが敬い憧れるジェダイ・マスター」の脆さを痛感したのではないでしょうか。
「そんなもんクソだ」と。
甥っ子ひとり救えないどころか、臭いものに蓋をしようと思ってしまうマスターのどこが偉大なんだ、と。
その後、ルークは身内にも行き先を告げず自問自答の旅にでて、最終的に辿り着いた島・オクトーでついに最初のジェダイ寺院を見つけた。
そこで傷心のルークにとどめを刺したのは、「そもそもルークの父・アナキンをダークサイドに走らせたのも、ジェダイ・オーダーだったといって過言ではなかった」という事実だったのではないでしょうか。 
たぶんね、書物に書いてあったか、地下の洞窟の鏡の間で見ちゃったんじゃないでしょうかね。
銀河中からリスペクトされ、高潔で強くて絶対的に正しいとされてきたジェダイ・オーダーは、その正しさと伝統ゆえにまあまあ歪んだ側面を持っていた。 簡単に言うとめっちゃ独善的だった。
ジェダイ最高評議会を組織して、銀河共和国にもひとこと物申せる影響力を持ち、めっちゃブイブイ言わせていたその最盛期に、ダークサイドの台頭に気づかず、パルパティーンの野望を野放しにしてしまっていた、緑のあいつ率いるジェダイ・オーダー。
「ジェダイ・マスターってすごい力があるはずなのに、なんであんなすぐそばにいたパルパティーンの腹黒さに気づかないの?」
という(いままでは空気を読んで黙ってきた)わたしの長年の疑問に対する正しい回答。
それがルークの口から語られたシーンは、最高に驚きで、最高に溜飲の下がる瞬間でした。
そりゃあね、「もうええわ」ってなりますよ。 
「なんなん、ジェダイなんなん」ってやさぐれたくもなりますって。

先代たちがしくじってきた、自分も甥っ子相手にしくじってしまった、そして抜群の可能性を秘めた新弟子も手放してしまったルーク。
「なにもかもジェダイ・オーダーがわるいんや!」とやけになってジェダイの聖地と奥義書を燃やそうとして、結局できなくて、そしたらヨーダが出てきて「こんなものはこうじゃ」ってビリビリドカーンって焼き払ってくれる、この一連のシーンの「お・・・お・・おまえなぁ!!!」感!! 三周ぐらいまわってさいこうでした!!

「失敗こそは最大の師だ」という言葉の説得力ね! 
「おのれの失敗を弟子に見せてさしあげなさい」「わしらは弟子に超えられるためにあるのじゃ」ってヨーダがいったときの、「で す よ ね ー ! ! 」感、さいこうでしたよね! 失敗だらけの人生でしたもんねー!
誰よりもジェダイ・マスターを名乗ってきたことを恥じ、はよ滅んでしまえばいいのになーと思っていたのは、他らなぬヨーダ自身だったのではないかと、わたしは思います。
エピソード2・3の時のつやつやCGではなく、旧シリーズ同様パペットで蘇ったヨーダの、あの飄々とした表情!
ルークの額を木材でガッとやる愉快な仕草!
わたしが観たかったヨーダはコレなんだよ!と、劇場で膝を打ちまくらずにはいられませんでした!
もしも、次回のエピソード9にルークが霊体として登場するのであれば、ついでにヨーダも出てくれていいんですよ!
なんだったらアナキンも出てきて、レンに直接ごめんなさいしちゃえよ! 
「わしがこじらせてたせいでごめんなさい」って!


観たかったといえば、レイとレンの共闘も本作で一番ガッツポーズを決めたシーンでしたよね!
そこに至るまで、ずっと遠距離恋愛みたいなことしていたんですよ。
「最初の出会いはサイアクだった・・・でも・・話すうちにわかったの・・・ アイツほんとはわるいヤツじゃないって・・・」みたいなアレね!! 「バカ女!」「バカ男!」(ただしどちらも目がハート)みたいなアレ!
誰に反対されても、自分だけは相手のことを信じたい。
そんな一心で敵陣に乗り込んでゆくのは、『ジェダイの帰還』のルークと同じ。
そして、一度は相手と相いれないものの、敵のボスに苦しめられていたら救いの手を差し伸べられるトコロも同じ。
敵味方の立場を超え、自分にとって大切な存在を守るため一緒に敵に立ち向かうのも同じなんですよ! これで燃えなくてなんで燃えろというのか!
鑑賞していたのが劇場にひとりだったら、立ち上がって拍手していましたよね! 
それぐらい興奮しましたし、正直、このシーンと惑星クレイトのルーク降臨シーンだけで、映画料金2500円の価値が充分にあったといっても過言ではない。(※前夜祭で観たので特別料金でした)

そもそも、ルークやレイア姫やハンの扱いには納得できない部分があったものの、今回の目玉はカイロ・レンとレイの関係性の変化でありまして、ロマンス小説の主人公みたいな描かれ方だったレイはさておき、カイロ・レンの登場シーンはすべてさいこうだったのですよね!!
父親まで殺したのに、「そのばかげたヘルメットをとれ」とか「ダースベイダーの再来だと思ってたけど買い被りだったな」とかスノーク師匠にボロカス言われて、挙句「なんだかんだいってルーク・スカイウォーカーが重要パーソン」って自分の存在を否定されちゃうレン。
そんな矢先、かつて自分をフルボッコにした勝気な女性レイと交流したことで、「いままでずっと年上のいうことに従ってきたけどろくなことになってない。 思い切って才能ある若者と組む方が将来性があるのではないか」という考えが芽生えたのではないか。 
ついでといっちゃあアレだけど、レイかわいいし。 
おっさんと組むよりやりがいありそうじゃないですか。 
生みの親を殺し、育ての親を捨て、師匠を斬ったカイロ・レン。
過去のしがらみをことごとく抹殺し、とっくに心の平穏が訪れていいはずなのに、いまだレンの心はライトサイドとダークサイドの間で千々に乱れています。
だって、レンはいつまでも孤独なままだから。

カイロ・レンに関して語られてきたこと。
幼いころからフォースの才能があった、スノークに目をつけられていた、ルークに指導してもらおうと思ったけど、既に手遅れだった、などは、すべて周囲の人の言葉なんですよね。
わたしは、今回レン自身がレイに語ったことがすべてだと思うのですよ。
親もとから離され、ジェダイの騎士になるべく日々修行に励み、さみしさを見せれば「ジェダイは感情をあらわにしてはいかん。ダークサイドに堕ちるぞ」と教育され、なんとか自分の心に折り合いつけて孤独に耐えていたある日、殺気を感じて目を覚ますと、そこには伯父で師であるルークが鬼の形相でライトセーバーを振り上げる姿。
鬼の形相だったんですよ。
ルークが実際どんな表情をしていたのかは問題ではないんです。
レンの目にはそう映った。 それが問題なんです。


レンは自分の力が正当に評価され、ただしい人生へと導いてもらうことを望んでいただけなのではないか。
みんなが勝手に期待し、勝手に慄き、勝手にさじを投げてゆく中、やっと現れ手を差し伸べてくれたのがレイだったのですよ。
その手を、レイの望む形で掴むには、あまりにレンの心は歪みねじ曲がってしまっています。
手を掴みたい。 でも、もう引き戻せない。

共闘を終え、「一緒に天下とろう」とレイに申し出た時のレンのすがるような表情。
「頼む」と絞り出すようにつぶやくレンを観ていたら、もうたまらんですよね! よっしゃわかった!おばちゃんでよかったらどこでもついてくで!
(ルンバなら操れるで!)

レンがダースベイダーに憧れた気持ち、わかる気がします。
大人の都合で母から離されひとりぼっちになり、ちゃんとしたジェダイ騎士になることを期待され、抑圧され、人生を制約され、いうこときかないとダークサイドに堕ちるぞと脅される。
レンとアナキンは似ている。
わたしにはふたりが、信頼していた大人たちに見放されて、心に壁をこしらえた、かわいそうな青年に見えました。
だからもうね、レイは一緒にいてあげたらいいんですよ! 方向性は違っても、もっと一緒の時間を過ごして、その中で逆影響を与えていけばいいじゃないですか! だいじょうぶだいじょうぶ、レイならできるって!

ただ、そう思えば思うほど、やっぱりレンがハン・ソロを殺さなければならなかった理由が、弱い気がするんですよね。
「過去を捨てる」とか「目的のためなら大切な人でも殺す」って言っていましたけど、まぁ、そうなんでしょうけど、殺っても殺ってもふっきれてないですからねぇ。 すげえ無駄に死んだ感がするんですよね・・・
スノークかファズマさんにその役を預けるのではダメだったのか。 
レンは救いも加担も出来なかった、という立ち位置で。
もしくは、どうしてもレンを親殺しにするのなら、いっそのこと、生まれ持っての純粋悪なんだっていうことにしてくれた方が飲み込みやすいですね!
めちゃくちゃ悪そうに、なんだったらライトセーバーべろべろ舐めまわしながら「オレは混沌より生まれし悪の落とし子・・・!」とかやってくれたら、「じゃあしょうがないな!」ってなりますよ! 少なくともわたしはね!


どうでしょうか。
わたしの複雑な気持ち、読んで下さったあなたに伝わったでしょうか。
『最後のジェダイ』はすきなところもかなしすぎるところもたくさんありすぎる、本当にすごい作品でした。

次回、霊体となったルークが出るのか出ないのか、そもそもあんな統制のとれていないファースト・オーダーがこのあと何年組織として存続出来うるのか、っていうか絶対早い段階で内輪もめするだろ、という心のざわざわと共にまた二年後をたのしみにしたいと思います。

最後に、我らが愛するプリンセスに心からの感謝を。





― おまけ ―

・ ポー・ダメロンとはなんだったのか。

・ ダメじゃないロンであることを存分に見せつけたオープニングシーン、レジスタンスのはねっかえりとしてプリンセスに心配されちゃう序盤シーン、他ならぬレイア姫が選んだ臨時代理を信用せず先走っちゃう中盤シーン、思慮の浅さが招いた数々の失敗から成長し、次世代のリーダーとしてのポジションを確立する終盤シーン。 きっと次回、ポーはレイア姫に代わりレジスタンスの指揮をとるのでしょう。 しかし、「なぜわたしを見るの?彼について行きなさい」というセリフはもともとあったのでしょうが、今となってはあまりに重い一言ですね。 

・ ローズ・ティコとはなんだったのか。

・ レジスタンス界の天童よしみ。 このよしみはとてもよく働くいいよしみですね。 「何者でもない誰かが歴史を変えてゆく」という本作のテーマを体現するもうひとりのヒロインでした。 「これ以上死んだ英雄はいらない」というレイア姫の気持ちとも重なる行動は、一瞬「おまえなにしてんねん」と思わずにはいられませんでしたが、フィンがあのまま特攻する様なんて観たくもありませんでしたし、もちろんあれで大正解なのですよね。 ありがとう、仲間を助けてくれてありがとう。 ホントにね、命あっての勝利なんですよ。 ただ、最後のキスは唐突すぎて「それいらんやろ」ってなりました。 そこキス、いりますか? とってつけたようにロマンス小説みたいになるの、なぜなんですか。

・ ハックス将軍とはなんだったのか。

・ 小物感がたまらない、本作のムードメーカー。 レンに消されないよう、ホントいつまでもがんばってほしい。 ただ、しょっぱなのギャグシーンはやりすぎだと思います。 ユーモアのあるシーンはたのしいけれど、行き過ぎるとコントになっちゃう。

(※ だいすきな動画ですけど、このノリを本編でやられるとちょっと違う気がします・・・)

・ ホルド提督とはなんだったのか。

・ 敵か味方かローラ・ダーン。 レジスタンスの紫ババアことローラ・ダーンさん、マジさいこう。 「もしかしたら敵に内通しているのでは・・?」と観客を惑わせるキャラクターであるためだけに本音を言わせてもらえなかった紫ババア。 ローズとは真逆にレイア姫がやってほしくなかった特攻で散ったりと、いまだ登場の必要性には謎が残ります。 でもいいんです。 ローラ・ダーンだから。

・ スノーク最高指導者とはなんだったのか。

・ 劇団スノークの看板役者。 「わしはなんでもお見通しじゃ」と高らかに笑いながら、その見通していたはずのレンくんにバッサリ斬られちゃう、本作最大のコント・シーンの主役。 今回初めて団員たち(赤備え)も活躍させてもらいました。 よかったね! 解散公演でしたけどね!

・ キャプテン・ファズマとはなんだったのか。

・ なんだったの??!!


・ テミリ・ブラッグとはなんだったのか。

・ フィンとローズが途中立ち寄ったカジノ、カント・バイト。 そこで奴隷として働かされていた子どものひとりがテミリ・ブラッグくん。 本編の最後、指にローズからもらったレジスタンスの指輪をはめたブラッグくんが、フォースを使う姿が映し出されました。 ブラッグくんはホウキをライトセーバーのように握りしめ、星がまたたく夜空を凛とした表情で見つめます。 彼が新たな希望であり、その希望はきっと彼ひとりではないのだろう、と一筋の光が差し込むようなラストシーンでした。

・ ミディ=クロリアンとはなんだったのか。

・ マ ジ で な ん だ っ た の ? ? ? ! ! !

・ わたしの認識の中では、フォースとは昔ヨーダが言ったように「あらゆるところに存在しているもの」だったので、正直ミディ=クロリアンが登場した時は度肝を抜かれました。 本作も、「血統主義からの決別」みたいに言われていますが、「え、もともとフォースって血族だけの遺伝なの?」っていう感覚があったわけで。 違いますよね? ジェダイ・オーダーって、みんな親戚なわけじゃないですよね? 才能を見染められたキッズが全宇宙からスカウトされてたんですよね?

・ そんな想いがあっただけに、今回レイが特別な出自を持たない普通の子だったことも、ブラッグくんがフォースを無意識に操っていたのも、当然そうあるべきことだと思いましたし、ミディ=クロリアンで手の届かないところにいってしまったものが再び戻ってきたようでうれしかったです。 きっと宇宙のあちこちにはたくさんのブラッグくんがいて、彼らはルーク・スカイウォーカーの伝説に憧れ、宇宙を救うべくレジスタンスとして立ち上がるのでしょう。 エピソード9は10年後ぐらいの物語になるのかもしれませんね。 レイア姫もまた、すでに伝説となっている近い未来で、ポー・ダメロンが率いるレジスタンスには若く正義心に燃えたフォースの使い手が集っています。 彼らをまとめるのはレイなのでしょうか。 ルークのもとからレンが連れ出したフォースの使い手たちと、新しきレジスタンス(反乱軍)たちの闘いが観られるであろうエピソード9。 静かに、その時が訪れるのを待ちたいと思います。

・ なにはともあれ、あと何回でも観たいぐらい心に残る作品でしたよ! わたしはやっぱりスター・ウォーズがすきです! 




過去の感想
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(エピソード7)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(エピソード4の前に起きていたこと)



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